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「あはは。ヴィクラムさんのなりふり構わなさと手の早さを見くびったせいで出遅れて焦ってるんですね、カイラシュさん」
ジェイは背後から、カイラシュの肩をぽんっと叩いた。
サヴィトリは自分の目をこする。
目の前にいたはずのジェイが、いつの間にかカイラシュのうしろにいた。ジェイの頭をつかんでいたはずのカイラシュの手は、例の香炉を握らされている。
「この――」
「カイラシュさんのアイメイクが濃いときって、情緒が定まってない時ですよね」
へらへらと笑うジェイは、ちょんちょんと自分の目元を指さした。
カイラシュは口元を歪め、押し黙る。
(知らなかった)
サヴィトリはまじまじとカイラシュの顔を見つめた。
言われてみれば、いつもよりしっかりとアイラインが引かれている、気がする。
「一人で抜け出したわけではないですよね。他の二人はどうしたんですか?」
ジェイの言葉から、カイラシュを含む三人(「他の二人」というのは十中八九ナーレンダとヴィクラムだろう)がどこかに隔離されていたのだとサヴィトリは推測する。
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