2-4 泡沫の時間 ★

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2-4 泡沫の時間 ★

「存じない! 大丈夫! 結構だ!」  背筋に得体の知れない感覚が走るのを覚え、サヴィトリは声を張り上げた。自由がきく足をばたつかせる。その衝撃で風呂水がさらに泡立ち、花の香りをまき散らしながら湯船からあふれた。 「水源が豊富な王都やその周辺では、身体を洗ってから湯船に浸かるのが一般的です。水の確保が難しい地域ではお湯にボディソープを混ぜて泡を作り、湯船の中で全身を洗ってしまうそうですよ」  カイラシュは泡をすくい取ると両手に纏わせた。サヴィトリの右手を取り、指を絡めるように握り込む。互いの手のひらを擦り合わせ、手首から肘へとカイラシュは手を滑らせていく。  カイラシュの体温と泡で滑る感触が気持ち良い――とサヴィトリは思ったが、そんなこと口が裂けても言えない。吐息一つ出さないように口をかっちりと引き結ぶ。 「そんなに緊張なさらなくとも。身体を洗うだけですよ」  笑ったカイラシュの息がサヴィトリの首筋にかかる。  むず(がゆ)さでサヴィトリの身体がよじれた。
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