第3章 3-1 かごの中のお菓子(ナーレンダ視点)

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「選ぶのは、僕じゃあない」  クッキーを手に取ろうとして、やめた。かごの中のお菓子と自分が重なって見えた。我ながら感傷が過ぎる。 「サヴィトリ殿下が補佐官と出かけてからずっとイライラしてるくせにー。クベラ人は総じて手が早いですよ?」  確かに、会議室での時、カイラシュとヴィクラムのクベラ人組は行動が早かったな。 「くだらないことを言いに来ただけなら本当にもう帰ってよ」 「いえいえ、ちゃんと仕事ですって。この前の治験でひどいことになった例の薬品の回収に来ました」  ル・フェイは慌てたように顔の前で手を振った。 「ああ、あれね」  すぐに思い当たった。治験の結果、服用者の七割に対して予想だにしない副作用が出てしまい、慌てて緩和剤を作らされる羽目になった。元々僕が作った薬じゃあないっていうのに。 「そこの鍵付きの戸棚に入ってるから、さっさと持って出てって」  僕が持っているのは緩和剤精製のために借りたものだ。悪用されると大変なことになるため、回収に来たのだろう。術法院の中にあるもので、悪用されて大変にならないもののほうが珍しいが。
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