第3章 3-1 かごの中のお菓子(ナーレンダ視点)

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「私はイェル術士長のこと応援してますよ」  嬉しくもなんともない言葉を残し、ようやくル・フェイは研究室から出て行ってくれた。  ル・フェイは優秀な術士だが、他人の色恋に興味がありすぎるのが玉に(きず)だ。  僕は答案用紙を端に押しのけ、机に突っ伏した。  何をどうしろって言うのさ、僕に。  だいたい、なんで僕にだけシフトとか紳士協定とか重要そうなことが伏せられてたわけ? 反対するから? するに決まってる。あんなおかしな約定、認められるわけがない。  囮作戦だって本当は嫌だ。常にサヴィトリが危険に晒される。なまじっか戦う力があるせいで、荒っぽい解決法にばかり頼るんだから。脳筋一辺倒では、いつか必ず足をすくわれる。 「ナーレンダさーん、いますかー」  研究室の扉が叩かれた。ル・フェイよりは礼儀がなっている。  どうぞ、と入室を(うなが)すと、中に入ってきたのはへらへら顔が胡散臭い茶髪の青年、ジェイ。ヤーマ伯のはずだが、よほど暇なのか王都にいることが多い。 「あのー、なんかちょっと大変なことになっちゃったみたいで……」  ジェイは言いづらそうに両手を擦り合わせた。
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