3-3 春の空の夢

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3-3 春の空の夢

 それは夢とわかる夢だった。  サヴィトリにとって忘れがたい、最初の別れの記憶だ。  当時七歳、いや八歳だったかもしれない。とにかくそれくらいの年の頃。  目が痛くなるほど青い空の日だった。その青さをやわらげるように、ちぎったわた飴に似た薄い雲がゆっくりと流れていく。  体当たりをするように建てつけの悪くなったドアを開け、幼いサヴィトリは全力で走った。とがった草や砂利が裸足に痛い。だが、靴をはきに戻っている暇はなかった。追いかけなければならない背中はどんどん遠ざかっていく。  涙が出そうになるのを手のひらで強く擦ってごまかし、サヴィトリは黒い綿のズボンに飛びついた。何があっても離れないように、ぎゅっと手足を絡ませる。  足にかかる重さに、少年――今とほとんど変わらない顔をしたナーレンダは仕方なく立ち止まった。穏やかな春の空と同じ色をした髪は、今よりも少し短い。
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