3-4 大人扱い

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「私なら大丈夫だから、仕事に戻っていいよ」  サヴィトリは出そうになった咳をこらえ、笑ってみせた。 「『恋人』を放って仕事なんかしていたら、関係と人格を疑われるだろう。一応、夜まではいるよ」  ナーレンダはちらりと窓に目をやった。  窓の外は、ベッドの上で過ごすにはもったいないほど綺麗に晴れている。夜まではかなり時間がありそうだった。 「ナーレは恋人の振り、なんだね」  サヴィトリは落ちたタオルを握りしめた。  ――馬鹿正直に『振り』をするつもりなのは、サヴィトリ様とあなただけですよ、ナーレンダ・イェル術士長。  カイラシュの言っていたことがサヴィトリの頭の中でこだまする。  それを聞いた時は「よくわからないけれど、なんか面倒そう」くらいの認識だった。今は「よくわからないのは相変わらずだけれど、なんかもやもやする」に変わっている。「もやもや」の正体を定義する言葉を持っていないせいで、余計に複雑になった。
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