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「僕が聞いていた話では『旧太師派から婚約者候補を出させないために、恋人の振りをして派閥に圧をかける』ということだったからね」
ナーレンダはペンを置き、ベッド脇のスツールに座った。サヴィトリの額や首、顎の下などに手を当てて症状の確認をする。
「振りじゃない方がいいわけ?」
ナーレンダはサヴィトリの顔を押さえ、自分の方に向けさせる。
「それは、私が決めることじゃないから」
サヴィトリは視線を下げた。目を合わせられない。
「決める決めないじゃあなくて、どっちが良いのか聞いてるんだけど」
「そんなのわかんないよ。ただ、カイみたいなことされても困る」
「何されたのさ」
「だから、あれこれ」
それ以上サヴィトリは口にできない。思い出すだけで鼓動が早くなる。他人に触れられるだけで思考が働かなくなり、あんなにも何もできなくなるなど知らなかった。
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