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「あれこれ、ね」
ナーレンダは眉をひそめ、サヴィトリの左手をとった。手のひらを合わせて握りこむ。
ナーレンダのしている指輪の冷たさがサヴィトリの心臓に染みる。
「僕の影がちらついて嫌だとか、そんな理由で指輪を取られたんだろう。あいつ、言動こそ狂っているけれど一番神経が細いからね」
指の付け根に圧を加えるようにナーレンダは手に力を込めた。
たったそれだけのことで、サヴィトリは緊張感を覚えた。とくとくと脈の打つ音が聞こえる。
「警戒するなら僕じゃあなくてヴィクラムだろうに」
「ヴィクラム?」
「カイラシュの比でないくらいには手が早い」
「ナーレよりも?」
「なんで君の中で僕の手が早いことになってるのさ」
「『分別のつかない幼い子供に貴金属をプレゼントして将来の約束をさせるなんて、イェル術士長はやっぱりロリコンな上に手が早いんですね。失望しました』ってル・フェイさんが」
ナーレンダの同僚である准術士長のル・フェイが言っていたことを、サヴィトリは一言一句間違えないようにそらんじる。
ル・フェイは、サヴィトリの数少ない友人の一人だ。姉のような存在といった方が近いかもしれない。もう一人の友人ニルニラと一緒に、三人で食事や買い物によく行く。
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