1-2 男たちにもワケがある

1/7
前へ
/175ページ
次へ

1-2 男たちにもワケがある

「わたくしは恋人の振りなどしませんよ」  突然、カイラシュが計画を破綻させかねないことを言い出した。 「お前はさっきからなんなの? シフトだけどシフトじゃないとか、恋人の振りはしないとか。この子のために真面目に働く気がないなら、いっそ抜けてくれない」  サヴィトリが聞きたかったことを、ナーレンダがあらかた代弁してくれた。 「馬鹿正直に『振り』をするつもりなのは、サヴィトリ様とあなただけですよ、ナーレンダ・イェル術士長(じゅつしちょう)」  カイラシュは妖しく目を細めた。綺麗な弓形をした唇には蠱惑(こわく)的な微笑みが浮かんでいる。 『はぁ?』  サヴィトリとナーレンダは、鏡写しのように同じタイミングかつ同じ角度に首を傾げた。 「以前から幾度となく申しあげているではありませんか。わたしくはサヴィトリ様のことを心からお慕いしていると」  カイラシュはサヴィトリの方を向いてひざまずいた。サヴィトリの手を取り、甲に唇を落とす。  この口上もキスも、サヴィトリにとっては目新しいものではない。毎日のように言われているし、されている。挨拶と同じだ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加