第4章 4-1 絡まった糸(ヴィクラム視点)

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 第三厨房は王城敷地のはずれにある。  元々は庭園にある東屋(あずまや)だったが、花を見ながら食事をしたいという王の要望に応えるために調理設備を整え、改築したそうだ。庭園が別の場所に移動したため、現在では、兵や侍女の休憩所から高官の密談の場としてまで、幅広い用途で使われていた。 「お疲れ様です、ヴィクラムさん」  第三厨房の中に入ると、いつもと同じ笑顔のジェイ殿に出迎えられた。食器を片付けている。室内はわずかにチョコレートの香りがした。  中はこぢんまりとした料理屋のような構造になっている。個室とテーブル席がそれぞれ一つ、あとはカウンター席があり、俺はカウンターの方に座った。 「ちょっと前までナーレンダさんが来てたんですよ。旧太師派から呼び出されたから行ったのに、秒で帰されたって怒ってました。そりゃ、あんなあからさまに具合悪そうだったら帰しますよね、普通。ひとしきり不満をぶちまけて、スパイス入りのホットチョコレート飲んだら出てっちゃいました」  ジェイ殿は喋りながら、俺の前に酒瓶とグラスを置いた。
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