第4章 4-1 絡まった糸(ヴィクラム視点)

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 どういう方法でかは知らないが、ジェイ殿は第三厨房の管理を任されていた。俺が記憶している限り、近衛兵時代からだ。ここで料理を作り、訪れる人間に振舞っている。  ヤーマ領伯となった今でも、ジェイ殿はたいていここにいる。よくわからない男だ。正体が掴めない。 「途中で会ったな。補佐官殿にもだ。二人にほとんど同じことを言われた」  俺はグラスに酒を注ぎ、一気に(あお)った。喉から胃の()まで()けるような感覚が走る。追って爽やかな香りが鼻に抜ける。 「サヴィトリに変なことするな、とかですか?」  ジェイ殿は生ハムと柑橘のマリネを出した。  あれやこれが食べたいと注文することもあるが、基本的にはジェイ殿に任せている。人の顔を見れば、その人が何を食べたいかわかるらしい。相当な異能だ。調理師見習いから領主にまでなった所以(ゆえん)はそのあたりにあるのかもしれない。  もちろん出す料理自体、並の店では比べ物にならないくらいに旨い。サヴィトリやナーレンダがわざわざジェイ殿に料理や菓子を作ってもらっているのも頷ける。
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