4-2 東国の生物兵器

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4-2 東国の生物兵器

 よだれを垂らしながら元気よく駆けてくる大型の狼に狙いを定め、サヴィトリは氷の矢を放った。矢は狼の前肢(ぜんし)に当たると地面もろとも凍り付き、狼の動きを止める。  身動きが取れず、もがいている狼の頭に矢尻(やじり)を向け、サヴィトリはもう一度氷の矢を放つ。  きぃんっ! と神経に障る高い音を立て、狼は氷像と化した。 「さすがですねサヴィトリ殿下。イェル術士長に匹敵すると言われる術の腕はお変わりないようで」  サヴィトリの隣にいる痩身長躯の男が軽口を叩きながら矢を(つが)える。彼が持っているのは一メートルを優に超える大弓だった。  風を切るように飛んだ矢は、狼の頭部を軽々と貫いた。矢の勢いは衰えることなく、狼の身体を引きずったまま二体目の胴に突き刺さる。木の幹に二体の死骸を()い留めるまで矢は止まらなかった。 「ヨイチ殿、お世辞、それとも嫌味?」  サヴィトリは頬を膨らませてみせた。  クベラが有する魔物討伐専門部隊「羅刹(らせつ)」の五番隊隊長であるヨイチ・シゲトウと張り合っても意味はない。  戦闘技能に多少の心得があるとはいえ、サヴィトリの実力など職業軍人と比べれば児戯(じぎ)同然だ。しかしまざまざと格の違いを見せつけられると、感心もするが腹も立つ。
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