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ほどなくして、身の丈ほどもある大太刀を背負った広い背中と、かっちりと撫でつけられた赤い髪が見えた。その奥には、巨大な熊の姿もある。通常の熊とは違い、爪が異常発達し、前肢が甲殻のようなものに覆われていた。見たことがない種類の魔物だ。
「おいヴィクラム! ずいぶん手こずってんじゃねーか!」
ヨイチが野次を飛ばす。言葉の遠慮のなさから親しさが見て取れる。
「もう終わったのか」
ヴィクラムの声には少しだけ驚きの色があった。
人の気配と声に反応したのか、巨熊が二本足で立ちあがる。両腕を大きく広げ、ぐおおおおっと人の恐怖心を揺さぶるような唸り声をあげた。
「ならばこちらも終わらせる」
ヴィクラムは一切動じた風もなく、腰に帯びた剣に手をかけた。わずかに腰を落とす。「刀」と呼ばれる倭国伝来の特殊な刀剣がヴィクラムの得物だ。
ヴィクラムが踏み込み、白い光がきらめく。
サヴィトリに見えたのはそれだけだった。
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