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あいつらは、かつて人間だった者。
あいつらは、陽だまりを好む。極端に寒さを嫌うから。
暖かいところに居続けるがあまりに、のぼせてしまって、冷静な判断を欠く。いや、そもそもがチンケな頭だ。元から最適解など導き出せやしないだろうが。
あいつらは、互いに呪いを掛け合っている。その呪いのことを友情と呼んでいるらしい。相手を束縛する呪いだ。
それらが、人間でいられない理由を担っていることにあいつらは一生気付けやしない。
あいつらは、いつも大きな鳴き声を発している。その大きな鳴き声が、小さな虫かごの中で反響して、人間である僕は耳を塞いで、ただ俯くだけしかできないんだ。
虫かごというのは実に特殊な環境だ。虫以外の生き物をいれることもあれば、カブトムシとクワガタを同じかごの中にいれるように、違う生き物を一緒くたに扱うこともある。僕は人間だった者たちの世界に独り紛れ込んだ正真正銘の人間であった。
人間であるのは、僕だけ。たった独りである。そう思い込んでいたのだ。
ある日、いつも通り日陰からかつて人間だった者たちの戯れを眺めていた。その中で見つけたのだ。ただ虫かごの外を眺める女の子を。その時に初めて、彼女はまだ人間であることに気づいた。人間だった者たちのふりをする人間だ。彼女に少しでも近づきたかった。でも、それは叶わない。僕は完全に冷たいところにいるから。ここから出られやしないのだ。
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