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恋心
私は、佐伯奈々。
高校2年生だ。
私には、淡い恋心を抱いている人がいる。
話したこともない人。
電車の同じ車両で、朝毎日見かける人。
一度、年配の人に席を譲る姿が、優しくて、笑顔がカッコよくて、恋に落ちた。
私がいつも座る場所の反対側の扉から乗り込んで来る彼は、混雜している時は、立ったまま本を読んでいる。
その彼の姿が見れるのは、たった二駅の間だけ。
それでも彼に会える日は、いつも幸せだ。
たまにいない時、少し落ち込みながら学校へ向かう。
スーツ姿のその人は、私よりいくつも年が上の大人の雰囲気の人だ。
こんな顔も中学生と間違われそうな童顔でスタイルも幼い体型の私には、彼は雲の上の人だ。
時々周りを見渡すふりをして彼を見ることだけが、私の癒しだった。
会えた日は、いつも母の綾子にテンション高く報告をしていた。
「あなた、見てるだけでいいの?1年生の頃からずっと同じじゃない?」
そう呆れた様子でため息をつく綾子に、
「見てるだけで、いいの!」
と、答えて部屋に戻り、朝会えた時の彼の横顔を思い出しては、クッションを抱きしめて、
「キャー!カッコ良かったぁ〜」
と、悶絶していた。
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