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旅立ち
高校で授業を受けていた時、学年主任の鈴木が授業中なのに奈々を呼び出した。
ざわつくクラスメイト。
どんな話をされるのか、奈々は全く想像がつかなかった。
奈々が職員室に入ると、ざわついていた職員室が静かになった。
進路相談をする半個室の小さな場所に案内されて、椅子に座る。
いつもニコニコと明るいお姉さんのような担任の真子が、泣くのをこらえるような顔で前の席に座った。
「あのね、落ち着いて、ね。お母さんが…、病院で今…亡くなったって…」
そう言って涙を流す真子を、奈々はじっと見つめた。
朝、笑顔で見送ってくれた母が、亡くなるなんて信じられなかった。
先生の言葉が、理解できなかった。
しばらくの沈黙の後、真子がおもむろに立ち上がり奈々の横に来て、真顔で泣くこともしない黙ったままの奈々を立たせて、
「お母さんの所に行こう…。先生も一緒に行くから…」
そう言った後、奈々の肩を抱きながらゆっくりと駐車場に向かい、鈴木の車の後ろの席に、真子と奈々が並んで座った。
奈々は、それでもただただ黙って下を向いていた。
『信じない。
信じない。
信じない。』
奈々はただ頭の中で同じ言葉を繰り返していた。
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