常連客

古井食堂

　この古井食堂、お勧めは生姜焼定食だけではない。なんと全てのメニューに食事の三拍子、安くて美味しくて量が多いが揃っているのだ。
　更にこのお店からは何とも言えない温もりが感じられて、それが一層私の食欲を増進させてしまう。それで、いつもついつい食べ過ぎてしまっている。

　確かに美波の言う通りお洒落とは程遠いし、名前も古臭い感じで良くはない。古ぼけた外装からは清潔さも感じないから若い女性が敬遠するのも理解はできる。
　だけど、私は一度店の中に脚を踏み入れて欲しいと思っている。
　古いなりに掃除は行き届いているし、内装だってそこそこ小奇麗に整ってもいる。当然の如く食事にはミジンコ一匹分の不衛生さも感じさせはしない。
　たった一歩でいい、お店の中に脚を踏み入れてさえくれれば、美波もそこに日本の心を感じ、家庭和食の神髄を感じ取っ手くれるはずなのである…と私は思っている。

　まあ、とは言え貧乏自営業の私とは違って、今では彼女は港区女子モドキ。見栄え８割の彼女と私では、優先すべきモノがいつの間にか異なってしまったことは否めない。
　私としてはこの行きつけの”古井食堂”の良さを友人全員に知ってもらいたいし、特に仲の良い美波とは食の喜びを分かち合いたい、そう思っているのだけれど、どうなんだろう？
　いつかは昔みたいに一緒に生姜焼き定食を食べてくれる日が来るのだろうか？
　私はここに来る度にいつもそう願っているのだけれど…