古井食堂

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 私がこの食堂を知ったのは半年くらい前、美波の家に遊びに行った帰りのこと。  急ぎの仕事が入ってしまった私が、美波の家にお邪魔したのは当初約束してしていた時刻を三時間も過ぎた午後の二時。  おかけで期待していた彼女の手料理の接待にはありつけず、お茶と僅かなクッキーのみのガールズトークとなってしまった。  仕事とはいえ遅れてしまった肩身の狭さ故、御飯の催促などできるはずもない。  そんな空腹を抱えての一喋りを終えたのは、陽の沈む少し前のこと。  家路に就く私は西日を浴びながらお腹を空かせトボトボと歩いていた。  そんな時である。不意に目に入ったのがこのお店の入り口横にある看板。  そこに書かれていたメニューの値段と、少し開いた窓からほのかに鼻を突くその香りに、私の心は一瞬にして鷲掴みにされてしまっていた。  気が付くと私は店に足を踏み入れていて、そこで私を迎えてくれたのは、ご夫妻らしいご高齢のお二人。  彼らのその雰囲気に家庭の暖かさを感じてしまった私は、もう食べる前から美味しい認定をしてしまっていたのである。  それからと言うもの、自宅のボロアパートから徒歩で30分は裕に掛かるのに確実に週に2~3度はお世話になっている。  私としては既にお得意さんの一人になっているつもりだけど、高齢のご夫妻の長い人生から見ればまだまだ新参者。他の常連さんの様な対応は残念ながら受けらてはいない気がする。  そこが少し寂しいところだけど、このまま通っていれば何れは親しくお喋りも出来るはず。  そうなれば、私も常連さんたちの様に色々なオマケを受けられ、羨望の眼差しも不要となると言うもの。
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