古井食堂

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古井食堂

 もし、明日地球が滅亡すると知ってしまったら、私が最後の晩餐に選ぶのは絶対に”古井食堂”の生姜焼定食一択に決めている。もちろん、定食内のみそ汁は50円UPの豚汁にバージョンアップはマストだ。  そんなことをついさっきまでお邪魔していた、中学の時から仲の良い美波と話していたのだけれど、いくら私が古井食堂の良さをプレゼンしても美波は一向に一緒に行こうとはしてくれない。  どうも、外装から受けるお店の雰囲気が彼女の好みではないようなのである。  美波も今ではお洒落な女性をきどってはいるけど、彼女だって絶対に大衆食の代表ともいえる、生姜焼き定食が好きなはずである。  遡る事10年と少し前まだ中学生だった頃、一緒にお出掛けした時の彼女は、5割以上の確率で昼食に生姜焼き定食を食べていたのだ。まだ幼顔であった彼女のあの至福の笑顔は、私のこの瞼の中に今でも鮮明に残っている。  と、言う様なことを私は力説するのだが、彼女はあの時は絶対に海老とチキンのドリアを食べたと言い張り、譲ろうとはしない。  そもそも、あの頃二人で行っていたお店にそんなメニューがあるはずも無い。有りもしないところで”海老とチキン”等と具体性を持たせられても全く説得力に欠けている。  恐らく彼女も本心では生姜焼き定食が食べたいはずなのである。やせ我慢してそんな嘘を吐いているのだと私は思っている。  もしかすると料理上手の彼女は、自宅では私のは内緒で秘密裏に食べているのかもしれない。  もしも、ホントにそうなら意地を張らないで一度くらいは古井食堂の生姜焼き定食を一緒に食べに行ってくれても良いと思う。  絶対に彼女も私と同様に沼るに違いないし、私とその美味しさについて饒舌に語り合ってしまうことになるはずである。
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