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「ああ、もっと身長があればなぁ」 願望が思い切り声になってしまう。私と同じ名前の花は、背丈が高いらしいのに。夏は成長期でどんどんのびるらしいのに、羨ましいったらない。そんな無意味なことを思いながら窓の外に視線を向けてみる。夕方なのにもう真っ暗。夏はまだまだ先だ。まあ、夏が来たって私の背がのびるわけじゃないけどね。 「花が咲くころになったって、これじゃ私には夏どころか春さえこない……か」 首をのばすのをやめて、身体ごと左右に振ってみる。わかってはいたけど、やっぱりダメ。恨めしくて目の前の大きな黒い壁を一睨みする。大好きなあの人の姿は、コレに阻まれて急に見えなくなってしまったのだから。 ねえ、あなたは私がこんなもどかしい思いをしてるなんて夢にも思ってないんだよね。仕方がないけど寂しいよ。話しかければ聞こえるだろうけど、でも。相手がいるんだかいないんだかわからないのに喋ってるのって、ちょっと恥ずかしいよ。勇気がいるよ。 「はあ……」 ため息交じりに、椅子の背もたれに身体を預ける。ギシッと軋む音がむなしく響く。……ん?椅子? 「たしかこの椅子って……あ!」 そっか。その手があったか。私は好きな人の姿を拝める最善の一手を思いついて、ついつい口元が緩んでしまった。
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