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お母さんのドラマで見た気がする光景だな。
カツカツ、と、黒板の中央に、白いチョークで自分のフルネームが書き上げられていく音を聞きながら、そんなことをぼんやりと思った。
「えー、今日からこのクラスで一緒に学んでもらう敷島佳央さんです」
標準語の文章を、関西独特のイントネーションで話す担任・刈谷の一言に、30人前後の生徒たちが興味津々で見つめてくる。
東京から来た転校生がそんなに珍しいか、と、誰とも目を合わせられず後ろの黒板を真っすぐ見つめた。
「うわ、ビジュアルえぐ」
「ほんまや」
<…えぐいってなによ>
一見して、制服や顔ぶれの違いはあれど前にいた高校とさほど変わらないように見えるのに、誰かが喋る声に、「ああ、大阪なんだなここは」と気付かされる。
「じゃあ敷島さん、一言自己紹介お願い」
担任の刈谷先生は、大阪に引っ越してきて初めて喋った関西人だ。30代後半くらいのおっとりした雰囲気の国語教師で、初対面で「おいでやす」と声を掛けてきてくれたことは忘れない。
「えっと、――父親の転勤について大阪へ来ました。東京弁で喋りますが仲良くしてください」
東京弁を聞くとイラっとする大阪人がたまにいる、と聞いたことがあったので、そのまま自己紹介すると、一拍置いてどっと笑いが起きた。
「敷島さん、おもろ」
「今のでめっちゃ好きになったわー」
ノリがいいのはあなた達だと思う、と思いながら、とりあえず自己紹介が上手くいったことにほっとする。
刈谷先生に促されて一番後ろの窓際の席へ進んでいくと、隣の席の女子が人懐っこい笑顔で話しかけてくれた。
「ねえねえ、佳央って呼んでもい?あたし新藤玲菜。玲菜でええよ」
「うん。よろしく玲菜」
話しかけてくれたのが嬉しくて笑顔で返すと、玲菜はなぜか目を輝かせて見つめ返してきた。
「え、なに」
「佳央、めっちゃ美しー…佳央の写真撮りたい」
「は?写真?」
「あたし写真部なの。美しいものが大好きなの」
隣の席が人懐こくて話しやすい子で良かったと安堵するのは、ちょっと早かったかもしれない。
何を言い出すのだ、と思って目を逸らそうとすると、玲菜は「つれない態度も好きかも…」とぼんやりしながら呟いている。
<…えーと…>
唐突な距離の詰め方に、接し方が分からずうろたえる。
急にこれからの高校生活が心配になってきて思わず前を向くと、今度は前の席の男子が苦笑しながら話しかけてきた。
「新藤、お前キモがられてんで。冗談通じてへん」
「え、八嶋嘘やん、――佳央、今の冗談やで」
2人の会話のテンポが速すぎて、一瞬置いてけぼりになってキョトンとした。
玲菜も、前の席の八嶋くんも、あたしの顔を見て同じくキョトンとする。
「え?」
あたしの反応に、2人がプーっと吹き出した。
「ちょ、まじで佳央可愛すぎない?顔もやけど性格カワ」
「敷島気ぃ付けや、全部真に受けてたらしんどいって」
「え、あ、うん」
この早口のノリについて行けるようになるのは、ある意味自己紹介よりもハードルが高いかもしれない。玲菜の反応に過敏になっているあたしの緊張に気付いたのか、玲菜がにっこり笑った。
「ごめんな、なれなれしくて。大阪人てこんなんやねん」
「新藤は特にやけどな」
「八嶋うるさい」
「――そこ、2人ともうるさい」
ついに教壇の刈谷先生から叱りの声が飛び、2人とも口を閉じて肩をすくめた。
先生が再びHRを再開したところで、2人が先生の目を盗んでこちらを向き、「ごめんな」と謝ってくれた。
戸惑いはしたけど、二人の性格の良さは十分伝わって、あたしは二人に笑って返した。

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