ワンシーン

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ワンシーン

それは前触れもなく、僕の視界に入ってきた―――… 僕は、お気に入りのカフェで、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。 窓の外をぼんやりと眺めていると、ベビーカーを押す女性が視界に入ってきた。 女性は前方から来た男性を見て、手を小さく振って笑っている。 こちらからは男性の後ろ姿しか見えないけれど、多分2人は夫婦だろう。 男性は赤ん坊の前にしゃがみこみ頭を撫でている。 仲睦まじい様子を微笑ましく見つめていた。 視線を少し冷めた紅茶に向け、残っていた紅茶をコクリと飲み干し、何故かまた、その親子を見つめた。 幸せを絵に描いたような家族。 奥さんであろう女性の隣を歩く男性に視線を向ける。 奥さんと子供を見る優しげな瞳。 男性のその顔、その姿を見て、まさか、と僕は目を見開く。 「――――永嗣(えいじ)…」 僕は小さく呟いた。 その瞬間 僕の足元が崩れ、僕の世界から色が、音が消えていく。 ドクン… ドクン… 『―――結婚?』 『すまない家の事情で…。でも、形だけだから。俺が好きなのは、お前だけだから。信じて欲しい。だから別れないで欲しい』 ―――うそつき ドクン… ドクン… 『――子供ができたって…?』 『オレ跡取りだし、義務は果たせたよ。これからはお前との時間は、ゆっくりと過ごす事が出来るよ』 ―――うそつき ドクン… ドクン… 『えっ、もう帰るの…? 前に時間取れるって言ってたのに…。次は?いつ会える?』 『もう無理だ。次はない。別れて欲しい。 俺には守るべき家族ができたんだ。 お前とはもう生きる世界が違うんだよ。 それくらい、分かれよ…』 そう冷たい言葉を残して、部屋を出て行った男。 今、 父親として、 夫として歩いている その男は――――… 1年前に別れた元恋人 鮎川 永嗣だった。 僕は急いで店を出て彼らを追う。 彼らは信号待ちをしていた。 彼ら以外、誰も信号待ちをしていなかった。 不意に振り返り、僕に気が付いたらしい。 「あっ……ッ!」 「え?急に…何?」 僕の姿を目にし、相手は目を大きく見開いて、息を飲み、口に手を充てて、顔面蒼白で震えている。 何故 そんなに驚くの―――…? ああ、そうか。――思い出した。 あの日―――… あのカフェで最後に『会いたい』と僕から連絡してから、ずっと待っていたんだ。 「やっと会えたね?久しぶりだね?」 僕はそう言ってニッコリと笑う。 僕はゆっくりと近付き、手を伸ばす。 あの日 貴女が僕を突き飛ばしたように。 貴女はベビーカーから手を離し、ジリジリと後ずさる。 永嗣は止めようとしていたが、それはもう手遅れだ。 車の急ブレーキの音 ドンッというぶつかった鈍い音 永嗣の悲鳴 人々の悲鳴が木霊する。 あの日もそうだった―――…。 僕は永嗣に最後のお別れをしたくて、あのカフェに行く途中で、この信号で信号待ちをしていた。 永嗣のスマホを見て先回りしようとして、貴女は僕の姿を見つけたのでしょう? 貴女は僕の後ろに立ち、僕を突然罵り突き飛ばした。 あの日は大雨で目撃者は居なかった。 冷たい雨の中、僕は即死した。 ああ、やっと―――… この地から縛ら霊(れ)ずに自由に逝ける。 僕の心を殺した永嗣に 僕の身体を殺した貴女に 未練を断ち切る事ができたから ずっと待って、やっと会えて 念願成就できたから―――… ―――END――― ※※※※※※ お粗末様でございます。m(_ _)m 最後の言葉の意味、分かりましたかね? ていうより、全体的に話が分かりずらかったでしょうか? 乱暴ではございますが、 「考えるな、感じろ」と、 申し上げておきまする。笑 前半部分は、 「後悔なんてしない」の最初に考えていた冒頭部分でございましたが、削除するのが忍びなく、供養の為に後半部分を足しました。 微妙なホラー味(?)になっておりましたら、幸いです。 また、思い付きましたら更新致します 取り敢えず、完結。でございます。 お付き合い頂き ありがとうございました! 合掌 2024年6月1日(土)
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