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「アヒルだ」ドンは店長と姿を見て笑いはじめた。ビルまで来て笑っていた。
南野の着ている店の制服が裂けて、彼女の素裸が見えたが、すぐに毛がのびて素肌が見えなくなってしまったのだ。
「アヒルだ」店長は南野だった生物がアヒルになってしまったので、残念そうにも見えたがアヒルなら抱きしめてもいい、と考えたのか抱きしめた。
「グワー」南野だったアヒルは鳴いた。
「本物のアヒルだ」ビルは笑ってアヒルを店長と一緒に捕まえた。
「南野さんはどこに行った?」ドンは信じられなかった。
「南野さんはアヒルだ」店長とビルはアヒルを大きな段ボール箱に入れた。
ドンはそれを見て南野と別れるのだとわかった。
「これで結婚はなくなりましたね」ビルは笑った。
「いやありえるのだ」店長は言った。
「アヒルと結婚するのですか?」ビルは言った。
「オレは『ワシと』と言っただろ」店長は笑った。
「それが何か?」
「オレと結婚するのではなくワシと結婚するのだ」
「よくわからないです」ビルは言ったのであった。
「鳥のワシと南野さんだったアヒルは結婚するのだ」店長は平気な顔で言ったのだ。
「異種交配?」ビルは不思議そうに言った。
「鳥のワシとの間に子供を産むのだ」店長は平気な顔で言ったのであった。
「そんなこと知っていたのですか?」ビルは不思議なものを見る目つきだった。
「鳥が化けていたのだろう」店長はビルと一緒にアヒルの入った段ボール箱を持って運びながら笑い合っていた。
「警察に行ってきます」店長は言った。店長はビルと一緒にアヒルを警察署に運ぶらしかった。
「オレの恋心は何だったのだろう」ドンはわからなかったのだ。
彼には南野の変態の際に、彼女の素裸をほんの少しだけ見ることができたのが、唯一の心の救いだったのであった。
ドンは信じられなかったが、信じるしかないとあきらめたのだ。
「オレも一緒に警察に行けばよかった」ドンは後悔していたのだ。
「アヒルかよ、変なものだな」と店の利用客らしいい年配の男たちは、笑いながら店を出て行ったのだ。あとにドンは残されていたのだった。
(了)
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