プロローグ

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プロローグ

いずこかの小さな島。 時刻は、誰も目を覚さない夜。 荒々しい海に囲まれ緑の木々が生い茂る、人が立ち入りそうもない島。 激しい波がザザーンザザーンと島の浜辺に何度も打ち寄せては、砂を湿らせ色を変えていく。 紫色に染まった分厚い奇妙な雲が、どんよりと島全体を蛇の如く取り巻く。星は雲に隠れ、光は島に届かない。 じめじめとした島の中央、窪んだ谷に一人の男がいた。 浜辺とは打って変わった静寂の中で、時折ポンポン、と水が弾けるような音だけが鳴り響く。 「……」 男の目の前には、木々と草とツタに覆われた大きな洞窟があった。洞窟を見守るようにこびりつき、青々と生い茂る。 どこまでも深い穴をポッカリと開けたこの洞窟は、どのくらいの長い時を見てきたのだろうか。 洞窟の中には、一寸先も見えない暗闇が覗く。暗闇の奥に出口の存在はあるのか、それとも。 男はひたひたと滑るように足を動かし、その洞窟に近付いていく。 洞窟の入り口に辿り着くと足を止め、正面に立つ。その表情は闇に覆い隠され、窺うことは出来ない。 「オロロ様……」 男の呼び掛けに応えたのだろうか、洞窟の暗闇が僅かに揺らぐ。まるで、闇そのものが生きているかのごとく。 「ずっと探しておりました。あなた様の怨み、必ずや晴らしてみせます。どうか、このグルベールめに力をお与えください」 そう告げると、男は洞窟に向かってスッとうやうやしく手を伸ばす。 「くっ……」 暗闇で先も見えなかった筈の洞窟から、眩しく激しい光が放たれた。こちらに突き刺さる強い光。男も思わず目を背け、後ろに退がる。 ——光、光、雷にも勝る光。 パアァ……。 しばらくすると光は小さくなって鎮まり、先程と変わらない静寂が辺りを包む。 男はそっと、自らの左右の手のひらを開いた。 ザラザラした手のひらの上、そこにあるものは。 「ふふふ……」 男は含み笑いを浮かべたまま、ゆっくりと洞窟を見上げる。 洞窟の上には、美しい群青の空が広がっていた。島を取り囲んでいた雲はいつの間にか消え、僅かに晴れた空から星の光が差し込む。 この星は、きっと誰かを讃えている。 「——あはは、あはははは!!! あはははははははははは!!!!!」 男は空に向かって、高らかに大きな雄叫びを上げた。 洞窟の遥か上。 谷の丁度真上、ゴツゴツした岩肌が剥き出しになった岩場の上。 そんな男の様子を、上から見下ろして眺めていた者がいた。 激しく風が吹き荒れる岩場。びゅうびゅうと大きな音を鳴らし、その者の纏う長い服の裾を大きく揺らす。 その者の姿を知るのは、辺りに吹く風だけか。 「……」 その青年は僅かに口角を上げると、身を翻し立ち去った。
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