21人が本棚に入れています
本棚に追加
age1開かれた扉 第9話 塔
【中央通り】
【パレス 玄関前】
「ええぇ!?」
広場を抜けた先。パレス、というその大きな建物は、この街で見てきたどの建物とも違っていた。
周りの建物がレンガ造りの漆喰であるのに対し、白と黒のタイルに縁が濃い緑のデザイン。
パステルカラーで淡い色の建物群の中では、この建物はただひたすらに目立つ。
「ここが団の……?」
大きな塔が二つ、二階と三階の窓がまるで飛び出したように大きく外側に出ている。かなり奇抜なデザインだ。
アイリはポカーンとして、首が折れそうなほど見上げる。そんなアイリの様子に、ハーショウはアハハ、と笑い出した。
「ビックリした? アイリ君にその反応されるのは、ちょっと面白いな」
アイリはあの田舎の集落から出た事がなく、建築のカケラも知らない。しかし周りの建物と比べても、この建物がおかしいのはよく分かった。
今日から、ここに通うことになる。
ハーショウは目の前の大きな鉄の門の前に立つと、重たそうにしながらも門を押し開けた。
これはどのような意図なのか、角の部分だけゴツゴツしたキラキラした物で飾られ、デコボコしている。
「おかしいよね。さて、中に入ろうか」
「はい」
促され、おずおずとパレスの中に入る。
中は非常に綺麗なものだった。柱が少なく、広い解放感のある空間。中の壁にもタイルが貼られ、床は綺麗なクリーム色が広がる。
見たことがないくらい大きな窓の枠には、それぞれ精密な木の細工がされてあった。
「うわぁ……」
所々に同じ花が飾ってあった。アイリは見た事がない、青紫の大輪の花。作り物の花のようだったが。
誰かの趣味なのだろうか。奥の壁に、雰囲気とはそぐわないポスターが貼ってある。アクション映画のポスターだ。
「かっこいい」
角ばった派手な文字が踊る。中央の爽やかな印象の水色の髪の若い俳優が、かっこよく視線を決めていた。両手には重たそうな銃を抱えていて、物騒だ。
アイリには、目に映る物のそのほとんどが分からない。だがその全てが興味の対象で、目を引く。
「ここが広間だよ。普段はみんな、ここにいることが多いね」
床をコンコン、と足で鳴らしてみた。やはり硬い、里の家の床でこんな音は鳴らない。すごい、これが都会の建物。
ハーショウは、アイリがあちこち興味津々に見つめるのが面白いのか、嬉々として中を紹介してくれる。
それでも、アイリの世間知らずには苦労していた。
「ほら、そこが食堂だよ。ここの食堂は広いだろう」
「ショクドウって?」
「食堂が分からないの!? 食事をするところだよ、ここでみんなで集まって食べるんだ。ほら、入ってみようか」
そんなショクドウに足を踏み入れかけた、その時。
「ハーショウさん!!」
突然近くの階段の上から、誰かの溌剌とした声が聞こえていた。
声がした方を振り返ると、小柄で人懐っこい顔をした青年が、こちらに向かって手を振っている。
アイリよりも、少し年上のような彼。ニコッと微笑むと、愛嬌のあるえくぼが目立つ。
青年はアイリの方をじっと見つめると、軽やかに階段から降りてきた。
「ハーショウさんひっどいわ~! さっき送ったのに、返事してくれへんやん。俺ら、新しい子ずっと待っとったんやで?」
「えー。それは悪かったけど、こっちは色々案内してるんだからさぁ」
これはもしかして、方言だろうか。聴き慣れない話し言葉の青年に、アイリは戸惑う。
不満の声をあげるハーショウを他所に、青年は笑顔でアイリに向き直った。
「新入りさんやろ? ジェイや、ジェイジーって呼んでくれてもええで、よろしゅうな」
ニカッと笑う。
青年も、ハーショウと同じ様なピシッとした服を着ている。こちらは紺色で、縦に入る銀色のラインが美しい。
新しい子、新入り。待っていたと言うのだから、恐らく剣の団の団員だろう。
お世話になる人だ、アイリは慌てて頭を下げた。
「アイリです。ジェイさん、よろしくお願いします」
「……ん?」
ジェイは首を傾げると、どんどんこちらに顔を寄せながら、じいぃっとアイリの顔を覗き込む。
少し丸くて、犬を連想させるような目だ。
「ほえぇ」
目と鼻の先に詰め寄られ、アイリは動揺した。
「……」
「……」
おかしな沈黙。
ジェイは更に顔をしかめ、くっきりと眉間に皺を寄せる。
「──ハーショウさん? まさかこの子、団員知らんのとちゃうやろな?」
「うん! 知らないよ、誰一人」
「えーーーー!!! 嘘やろおーーーーーー!????」
ジェイは虚しく天を仰ぎ、叫んだのだった。
最初のコメントを投稿しよう!