age1開かれた扉     第7話 駅

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     age1開かれた扉     第7話 駅

【首都 テイクンシティー】 【ベカルミングストーン駅】 テイクンシティーで最も歴史ある、赤い煉瓦造りの大きな駅。 三階建ての建物くらいの大きさがある、巨大時計で有名だ。 「うわぁ……」 そこに、アイリの姿があった。 大きな駅に大きな看板、ガヤガヤと騒がしい音、駅を彩る飾り。何から何まで、今までアイリが目にした事がないものばかりだった。 なんと大きいのか。アイリはただただ圧倒され、その場に立ち尽くす。 正面の大きな窓。アイリの背を優に超えるステンドグラスが貼られて、なんとも豪華だ。こんなに大きなレッシャが、小さく見えるなんて。 何より驚いたのは、駅に溢れるばかりの人だ。何故ここまで多くの人が、このたった一つの駅に集まっているのだろう。 小人でも巨人でもなかった。アイリや里の人達と、同じ大きさの人間。これは大きな発見だ。 「みんなにんげーーん!!」 感慨深く天井に向かって叫ぶアイリに、周囲の人々はギョッとしたのだろう、サッと引いて距離を取る。 「あれ」 「おい、そこのお嬢さん!」 甲高い男性の声。自分に話しかけているのだと気付くのに、少しかかってしまった。 「はい」 「はい、じゃないよ。切符は?」 駅員だった。ここは、カイサツと言うらしい。 ──そうだ、ここで切符を見せないといけないんだっけ。 ポケットからようやく切符を見つけて、駅員に渡し、ぎこちなく通過する。切符の存在にはまだまだ慣れない。 「わわ、こっちでいいのかな?」 カイサツを通り過ぎると、アイリはキョロキョロと周りを見渡しながら先へ進む。 押されるように人の流れに乗ってしまったが、これで待ち合わせの場所に行けるのだろうか。 兄を頼ろうにも、残念ながらブライアンとは別行動だ。兄は一足先に、家の準備の為に動いてくれているという。 「ミニャの女神ゾウ、ミニャの女神……。まず、ゾウって何?」 ──ゾウではなく、(ぞう)。 長老曰く、例の政府と団の仲介役の人が、団の本拠地に連れてってくれるという。 駅に着くと、近くにミニャの女神像という有名な像があるらしい。その像の前で、その人と待ち合わせる手筈だ。 だが、アイリは地図の見方もろくに分からない。東西南北もよく分からない始末。 幸い大きな地図は見つかったのだが、まず現在地が分からない。この文字は、なんと書いてあるのだろうか。この蜘蛛みたいな印は、何を示しているのか。 「どうしよう……」 これはとりあえず、誰かに聞くしかない。通りがかった誰かに話しかけようとするが、これがうまくいかない。 アイリは知らない人に、話しかけたことが無いのだ。 「あの、すみません」 タイミングが合わないのか、無視されてしまう。めげずに幾度か話しかけてみたが、失敗した。 途方にくれたその時、出発する前の長老の言葉を思い出す。 「像は、マコの木の並木道の先にあるそうですよ。マコの木なら知っているでしょう?」 「ナミキミチって何でしょう?」 要するに、マコの木がたくさんある道。 アイリは思い切って、駅の外の広場に出てみた。吹き抜けるように、爽やかな風が吹く。 テイクンシティーの気候は里よりほんの少し暖かいようだと、アイリはホッとした気分で足を踏み出した。 「あ」 駅の近くに、間違いなくマコの木が並んでいる道があった。目当ての木を見つけて嬉しくなり、アイリははしゃいで駆けだす。 「綺麗……」 マコの木はこの季節になると、薄い黄色の綺麗な花をいくつも咲かせる。満開の花の美しさに、アイリの頬も緩む。 規則正しく並んでいる木から、違和感をどうして感じないのだろう。 ヒラヒラと落ちて来た花弁を、手のひらで受け止めた。 花びらを見つめてはにかんだ──その時。 「……!!」 ──見られている、誰かに。 今、はっきりと視線を感じた。 アイリが気配がした方に振り返ると、そこに一人の青年がいた。 アイリより少し年上だろうか。その青年はまばたきもせずに、こちらをジッと見つめている。何か驚いたように、真っ直ぐ目を大きく開けて。 涼やかな目元。瞳が綺麗で、こちらも思わず見つめてしまう。よく見るとオッドアイで、左右で瞳の色が違うのだ。 美しい瞳は、見続けているとトロンと海に沈むかのよう。 「あの」 アイリが声をかけてみても、青年はアイリを見つめたまま微動だにしない。青年の紺色の短い髪が、ゆるやかな風にあおられなびく。 ──どうしたんだろう。この人どうして、じっと私を見てるの? だが、今なら話しかけられる。思い直したアイリは、勇気を出して青年にパッと近付く。 「あ、あの、ミニャのゾウってどこにあるか知ってますか?」 「……」 その質問は予想外だったのだろう、少し拍子抜けたようだ。青年はすっと腕を伸ばし、とある方角を指差す。 「──あっち、まっすぐ」 進行方向の逆。アイリは恥ずかしさで、顔が真っ赤になってしまう。 「すみません!! あ、ありがとうございました!!」 ペコペコと彼に頭を下げると、慌てて来た道を引き返す。 青年は不思議そうにアイリの後ろ姿を眺めていたが、しばらくすると踵を返し、さっさと歩きだしたのだった。
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