age1開かれた扉     第8話 待ち人

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     age1開かれた扉     第8話 待ち人

「やっと来たー! 心配したじゃないか!」 ようやくミニャの像にたどり着いたアイリに対し、出迎えた待ち合わせ相手の第一声がそれだった。 明らかな遅刻で、アイリはその人物に向かってペコペコ頭を下げるしかない。 ミニャの女神像は、想像よりも小さかった。天に祈るようなポーズをしている。駅の設計者の娘が、モデルになっているらしい。 「すみません、遅くなりました!」 「アイリ君、だよね?」 「はい! アイリです!」 「初めまして、アイリ君。ハーショウだ」 ハーショウ、というその人は30代後半ぐらいだろうか。大柄で、落ち着いた印象の細い切れ目。 大人の雰囲気を醸し出し、厚い布のスーツをビシッと着こなしていた。そのスーツは一体、どうやって手に入れるのだろう。 行こうか、とアイリに促すと、ハーショウは先を歩きだす。 「少し歩くけどごめんね、目的地はここからそうはかからないから」 「はい!」 ハーショウに続いて並木道を抜け出し、街の景色が視界一杯に広がる。そのカラフルで華やかな街並みに、アイリは目をパッと輝かせた。 「わぁ!」 美しい街だ。レンガの漆喰で彩られた、艶やかな色とりどりの建物。笑いながら行き交う人々。 あらゆる家や店が、華やかに軒を連ねる。何か準備をしているのだろう、慌ただしい雰囲気だ。 「ほい、そこ並べて〜!」 「あいよっ」 「あ、そっちが先だ」 軽快で明るい声が飛び交う。 街の人々は里の者達とは違い、それぞれお洒落な格好を着こなす。一方アイリは、里にいた時と同じクレエールの民族服。 慌ただしい中でも、皆がチラッとアイリに視線を向ける。お洒落なこの街の人々から見れば、アイリの服装は浮いているのだろうか。 ここで暮らしている人達……。 「あ!」 道中、小さい子供達が固まってこちらを観察していた。何か気になるのか、眼をギョロッとさせている。 アイリは嬉しそうに、彼等に駆け寄っていく。 「アイリ君、どうしたんだい? そっちじゃないよ」 「こんにちは、アイリです!」 「!!」 こちらに話しかけてきたアイリに、子供達は戸惑った様子で目を見合わせる。 「嬉しいな、この街にもいるんだ」 ──よろしくね。 子供達は目をパチクリさせていたが、すぐに察したらしい。揃ってニマッと笑い、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。 はしゃぐ彼等に、アイリもいっぱいの笑顔を向けて返す。 「ア、アイリ君? あの、誰もいないようだけど、誰と話してるんだい?」 顔を引きつらせるハーショウの目には、子供達の姿は映らない。ただ、家の壁が映るだけだ。 アイリはごめんなさい、と返すと、慌ててハーショウに追いつく。子供達に手を振りながら。 「挨拶していました」 「あ、あいさつぅ?」 誰に挨拶していたのか、ハーショウは尋ねるのをやめた。冷や汗を流し、さりげなく目を逸らす。 アイリはすっかり上機嫌だ。 「アイリ君は、僕のことはなんて聞いている? クレエールの当主は、僕のことどんな風に言ってたのかな」 クレエールの当主、と言われても、一瞬誰のことだか分からなかった。長老のことだ。 「えっと……セイフの人で、団のチュウカイ? をしている人だって」 口に出すのに、まだ慣れない単語。 ハーショウはアイリの答えがおかしかったのか、フフ、と笑いだす。 「ちょーっと、違うかな。僕は、政府の異能機関の人間でね。そういった異能の力を調べて、管轄する部署に属しているんだ」 「イノウ、キカン、カンカツ、ブショ……?」 「分かりにくかったかな。要はエイドリアンの実態を知り、その能力を生かす為に動いているんだよ。団の運営にも関わってる」 知らない言葉の羅列に、アイリは目を白黒させるが、ハーショウは構わず淡々と続ける。 「その為に、僕は各地から団員にふさわしい子を探しているんだよ」 「……!」 ハーショウは、団員を探してくる役目の人だったのだ。ハーショウはもう何年も、団員のスカウトを行なっているらしい。 「自慢じゃないけど、今の団員は全員僕が連れてきたんだよ。一人を除いてね」 その一人が、どういう人なのかは気になる。何年もと言っているあたり、若く見えるが、もう少し年齢が上なのだろうか。 「ハーショウさんって、偉い人なんですね」 アイリが感嘆してそう言うと、ハーショウは愉快そうに笑い出した。 「それほどでもないよ。色々な団員を見てきたから、能力の知識には自信があるさ。アイリ君の能力は、どうせみんな知ってるだろうけど」 アイリは思わず立ち止まる。 少し動揺した様子のアイリに、ハーショウは首をかしげた。 「──みんな知ってる?」 「ん、驚くほどかい? クレエールの能力は有名なんだよ」 「有名だなんて」 街の人々に、既に知られているなんて。クレエールの能力は、それほど有名なのか。 今まで聞いたことが無かった、長老からも。 「そりゃそうだよ。僕のようなエイドリアン家系なら、尚更だ」 アイリは驚いて立ち止まり、ハーショウの方を見た。 今、僕のようなって。 「──ハーショウさんも、エイドリアンなんですか?」 ハーショウはニヤリと笑った。 「そりゃあ、そうじゃないと団員を集めるなんて出来ないよ。今も能力を使ってる。何の能力かは、うーん……ナイショにしとこうか」 「今も使ってるんですか?」 アイリはハーショウをジッと見てみた。特に、彼に特別な事が起こっているように見えない。どういう能力なのだろうか。 「僕の能力は、ずっと垂れ流しなんだよ。それは珍しいことじゃない。今の団員にも一人、ずっと能力を出したままの人がいるよ」 これがなかなか大変だ、という。疲れてしまうのだ。 「それだけ色んな能力があるってことさ、ほら」 話している間に、目的地に着いていたらしい。 ハーショウは、とある建物の前で立ち止まった。 「ようこそ! ここが剣の団の本拠地、パレスだ」
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