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6.ブルーマンデー side藤原
年齢が同じで、出身の県が同じ。それだけで運命を感じるほどオレは単純じゃない。
そう思いながらも藤原は、目を閉じて受話器越しの声に集中する。
彼女の唇が音声を紡ぎ出す様を想像する。
先月、新年度の、委託業者との顔合わせで出会った女の子。
業者側の席に座って、水色のジャージを着ていた。
緊張しているのか、椅子に浅く座り、あごを引いて唇をきりっと引き締めていた。
互いの自己紹介の時に目が合った。
目が合っただけで運命を感じるほど、単純でも楽観的でもない。
本来憂鬱な月曜日の朝一番に、彼女と通話をするのは悪くない。内容が新鮮味のない業務の引き継ぎ連絡でも、落ち着いた彼女の声が耳に心地よい。
「倫ちゃん」
業務連絡が終わった頃合いで、名字呼びから名前呼びに切り替える。
近くに座る女性上司の横顔を盗み見ながら、声のトーンを落とす。
年齢が同じで出身の県が同じ。
そのことが彼女を名前呼びする特権になっている、と思いたい。なんとかハラスメントとか、イタイのは困る。
「倫ちゃん。前にも言ったんだけど」
藤原は話を切り出す。
「七月の頭に、役所関係の人で県人会の集まりがあるんだけど、来れそう?」
ええと、と受話器の向こうで彼女が言い淀む。
言い淀む声音が新鮮で耳をそばだてる。
「日曜日はだいたい夜勤の明けなので、夕方なら大丈夫だと思います」
「倫ちゃんが来てくれると、みんな喜ぶと思うよ」
オレが喜ぶよ、とはさすがに言えない。
彼氏はいるのか、と尋ねたこともない。
この四月に都内に引っ越してきたばかりだと言っていたから、彼氏がいたとしても遠距離恋愛かもしれない。
それなりにチャンスはあるかも、と考える。
電話を切るのが惜しいなと思い、受話器を持ったまま首を巡らせたタイミングで、その男が、警備員を吹っ飛ばす勢いで区役所の自動ドアを突破してきた。
女にも見えなくはないが、背が高いから男だろう。
黄色と肌色の中間みたいな微妙な色のTシャツの背に、パトロン協会と書かれている。
どこであのTシャツを手に入れたんだろう、と思っているうちに、男は案内カウンターに突進していった。
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