2.オメガ搬送サービス side真白

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「真白さん、見ててくださいね」  ペットボトルの水を自らの手のひらに少しだけ出して、彼女はそれを舐めてみせた。  ちらりとのぞく赤い舌。  ふせられたまぶた。 「ね。毒じゃないでしょう?」  少しだけくだけた口調で、少しだけ頭を傾けて、ほんの少しだけ彼女は微笑んだ。  一つに結んだ長い髪が揺れた。  水色が蜃気楼みたいに揺れた。  おでこのあたりからすーっと熱が抜ける感覚。  この子はどうしてこんなに涼しそうにしているんだろう。  俺は彼女の手を取って舐めた。急に水が美味しそうに見えたから。  水は彼女の指の間から滴った。  舌の上の苦い薬を飲み下す。  喉の通りが良くなる。  この子の水は大丈夫。もっと欲しい。  もっと。   「もっと寄こせって」  彼女がペットボトルを差し出す。俺は首を振る。  違う。  もっと。    彼女が再び手のひらに水を注ぐ。俺は舐める。  彼女の手のひらを犬か猫みたいに舐める。  舐めながら、この子に飼われたら幸せかもしれないって思った。  勝手に触ってこないし、俺の欲しいものをくれる。  俺はずっと施設に飼われっぱなしだったけど、みそっかす扱いだったし。  誰もこんなふうに、俺のして欲しいように、かまってはくれなかった。  ぴちゃぴちゃ音を立てながら、彼女の指のつけ根まで舐め回した。  彼女が小さく息を吐いた。  そのささやかなため息は、波紋みたいに俺の鼓膜を震わせて背骨を這って、下りてきた。  ぞくっとする。  抑制剤なんて意味ないんじゃないかって思った。
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