2.オメガ搬送サービス side真白

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「この車椅子に彼を乗せればいいんですか?」  ふいに、だれか男の声。  前頭葉でタイムラグがあってから、トマの声だと分かる。  背後から俺の両肩に回される手。  熟れた果物の匂いが再び自分から立ち上る。  だめだ。  アルファに触れられるとチリチリする。  痛くて苦しくて、それでいて、撫で回されているみたいだ。  肌に触れる刺激に耐えかねて、俺は、トマの手を振り払った。また視界が赤くなる。  自分で立ち上がろうとしたけど、腹の中があまりに熱くて爆発してしまいそうで、怖くて足が動かせない。    女の子は表情を変えなかった。 「真白さん。これから車椅子に乗ります。私が、あなたの介助をします。身体に触れてもいいですか?」    ぐにゃぐにゃした脳の中が一部だけ冷やされる。  もやった視界の中、彼女の顔だけが近付いたり遠ざかったりする。 「私の首に手を回してもらえますか。体重を預けて欲しいんです。その方がやりやすいので」  俺はそのとおりにした。  不思議と迷いはなかった。  女の子に抱きつくみたいな姿勢になった。  ふ、と彼女の吐息が右耳にかかって、ジャージ越しに彼女の胸が感じられて、耳の後ろあたりから音が遠のいた。  耳鳴りの直前に真空になる、みたいな。  彼女が俺のボトムスのウエストあたりに手をかけ、ぐっと引き上げた。  彼女の太腿は俺の足の間にあった。  それは逃れられないほど狂おしい浮遊の瞬間だった。  女の子の胸に引き寄せられ、女の子の太腿で下腹部を擦り上げられて、俺は一瞬宙に浮いた。 「ほら。もう大丈夫。上手でしたよ」  上手、と言われた瞬間には車椅子の座面にお尻がついていた。  手指や、背中や下肢の感覚が正常に戻ってきて、目にかかっていたフィルターが取り去られる。  ものがはっきり見え始める。  甘すぎる余韻に震え、俺は彼女にしがみついた。  どうなってしまったか見なくても分かる。  施設で、強制的に体液を採取されたことはあったから。  俺の下着の中は、白い、粘っこいもので、ぐしゃぐしゃだった。 「・・・・・・さいあく。もう、死にたい」  初対面の女の子に抱きあげられて、いっちゃうっていうか、出ちゃったっていうか。  これ以上に最悪な印象を与える出会いって、ないだろって思う。
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