3.ヒート side倫

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「リン」  腕をつかまれて我に返る。 「苦し・・・・・・」  慌てて右手に持ったままだった真白さんのネクタイを、彼の身体から離れた場所に置いた。 「また吐きそうなの?」  思わずタメ口になってしまった。 「やだ」  真白さんは勢いよく頭を振った。  そんなことしたらまた吐くんじゃ、と心配になる。 「やだ。俺、吐くの、すげー嫌い。気持ち悪い。けど、ぜってー嫌だ」  やだやだ、と頭を振りながら真白さんは床に転がった。  真白さんが何か握りしめたままだと思ったら、私のジャージだった。 「リン。口の中が気持ち悪い。だから吐いたりしたくなかったんだよ。なんとかしろよ。俺を助けろ」  ここまで態度が大きいと反論する気が失せてくる。 「どうしたいの? 口ゆすぐ? 洗面所は?」  何を尋ねても、真白さんはやだやだと連呼して私のジャージと共に床を転がる。  まるで駄々っ子だ。世話が焼ける。 「水」  ふいに真白さんが私の手を取った。  まるで、私が神様か仏様か何かで、彼は許しを請う人のように。  私の左手を取って、手のひらに唇をつけた。 「リン。水。お前の水、どこへいった?」  真白さんの舌が私の手のひらをなぞる。  生命線のあたりをなぞる。  濡れて柔らかで芯を持った舌先の感触。  人さし指と中指のあいだのつけ根を舐められて、ぞくりと背骨がざわめく。 「真白さん、私の手、今、きれいじゃないから」  色々なところを触った手だし、消毒もしていない。 「ん?」  真白さんは私を見上げた。  至近距離で目が合ってしまった。  黒い目。  黒目がちな奥二重の目に、嘘みたいに長いまつげ。  両性具有的なのはオメガの特徴だ。  美しい容姿は真白さんに限ったことじゃない。  目がとろりと潤んでいる。  体中からフェロモンを出して、目を潤ませて、こうやってオメガはアルファをとりこにする。 「きれいじゃん? 俺、リンの手、好きだし」
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