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「真白さん」
私は真白さんの背骨に触れた。
手のひらで背骨をなぞる。手を滑らせる。
オメガの肌は汗で濡れているのに、サテン生地のような滑らかな触り心地だった。
表面は冷たいのに薄皮の下に溶けそうな熱を秘めている。
「真白さん、タオル借りますね」
これは仕事だ、と自分に言いきかせる。
私が立ち上がると真白さんは私の足にすがりついた。
頭を床に打ち付けるみたいな姿勢で、何か言った。
耳をそばだてる。
こわい、と言っているように聞こえた。
「リン。行くな」
オメガに抱きつかれている。
私は帰らなくちゃいけない。
戻れない予感がする。
「タオル取ってくるだけです。すぐ戻りますから」
タオルは脱衣所の棚にほんの数枚だけあった。
あるだけ持ち出した。その中のフェイスタオルを一枚だけ、熱いお湯で濡らして絞った。
水栓からお湯が出るまでに間があった。私は洗面所の鏡から目を逸らしていた。
いま、自分の顔を見てはいけない。
オメガのヒートに浮かされた自分の顔を見てはいけない。
私はショルダーバッグからゴム手袋と清拭用の大判のウエットティッシュを取り出し、真白さんに向き直った。
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