71人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
1.オメガ搬送サービス side倫
転職先は、プリンスロイヤルサービスという、ちょっと気恥ずかしい名前の会社だった。
東京都からの事業委託をメイン業務としている。
事業内容は、オメガ搬送サービスっていう、まるで都市伝説のような内容。
私が採用になった決め手は、感情が表に出ないから、だったと聞かされた。
「倫ちゃんなら採用されると思ってたわ。クールビューティーって感じ。あたしの若い頃にそっくり!」
麻子先輩は助手席で豪快に笑う。
研修という名の試用期間を終えて、今日が私の仕事デビュー。
研修中、最初に脱落していくのはベータの若い男性だった。次に、ベータの中年の男性とベータの若い女性。
この仕事をやっていけるのは、だいたいが四十代に入ったベータの女性たちだ。麻子先輩のような。
私は異例の若さで採用されたと言われた。
若いといっても二十代半ばだし、表情筋が死んでるせいで採用になったっていうのも、大概だけど。
「さて、クライエントがいる場所はホテル・マンハッタン。ここ東京なのに、マンハッタンね。オメガとアルファの婚活パーティーで有名なところだわ」
麻子先輩がタブレット端末に送られてきた情報を読み上げる。
「二十一歳。オメガの男性。ましろ、って読むのかな。真白っていう名前で登録されてる。身長177センチ。オメガにしては高身長じゃない?」
麻子先輩がタブレットの画面をぱちんとはじいて、眉をしかめた。
「倫ちゃんって元々看護師さん?」
「介護士です」
私はフロントグラスとバックミラーを捉えながら答えた。
東京タワーがバックミラーにろうそくみたいに映っている。ひとりぼっちみたいに見える。
「介護士か。そっか、倫ちゃん、移乗、上手いもんね。じゃあ、いけるかな。初回出動が大柄の相手って緊張するよね。大丈夫。いざとなったらあたしも手伝うから」
こういうところ、麻子先輩らしい。頼りがいがあって優しい。
「ありがとうございます」
私は軽くあごを引く。中途半端な敬礼みたいになる。
麻子先輩は、ふふ、と笑う。
「倫ちゃんなら、オメガに巻き込まれること、なさそうね」
最初のコメントを投稿しよう!