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4.ヒート side真白
着替えさせてと頼んだ。
自分がこんなに甘ったれた人間だと思わなかった。
ヒートって人格変えるのかな。
女の人に優しくしてもらったのって、いつぶりか分からない。
オメガと診断された時のことは、小さかったから覚えてない。
オメガと診断されたその時から俺は家族と暮らせなくなった。
母親の顔もぼやけた記憶しかない。
部屋に運んでもらって、夢うつつのあいだに上半身はすっかり着替えが終わってた。
彼女の指示で体勢を変えるうちに上手くシャツを脱がされていた。彼女がボトムスに手をかけた場面で、我に返った。
「真白さん。脚を揃えて向こう側に倒して下さい」
冷静そのものの声で、そう言われた。
彼女に腰のあたりに触れられたとたんに、また熟れたマンゴーみたいな香りが喉を押し上げ始める。
抑えきれない吐息が自分の鼻に抜ける。
彼女が俺のボトムスを下げて、濃厚に立ち込めたのは白くて青臭い匂い。
生々しく思い出されて、いたたまれなさに身をよじる。
あのホテルで車椅子に乗るときに出たやつ。
あっという間に上り詰めて、下着を汚してたそのもの。その匂い。
彼女に触れられて懲りもせず、また身体がうずき始める。
縮こまっていたものが固さを取り戻し、自己主張を始める。腹の奥も熱くなる。
嫌われて軽蔑されて、このまま放置されるのかなと思った。
俺だったら絶対そうする。
体液と汗でベタベタした男に、甘えられたら気持ち悪い。
しかも発情してる。
リンは立ち去らなかった。
俺の背後に座っていた。
「真白さん、こわいですか?」
こわい。
初めてのヒートにひとりで立ち向かうのは怖すぎる。でも、この子に嫌われるのは、もっと怖い。
「真白さん、私、ベータですから。真白さんに何もしませんし、うなじを噛むことも出来ません」
発情して、アルファに抱かれて、その最中にアルファがオメガのうなじを噛むと、特別な関係が成立する。
アルファとオメガが番になる。
アルファと番になることこそが、オメガにとって最重要で、最高にロマンティックな瞬間なんだと教え込まれてきた。
だけど、俺には発情も番も、無縁だと思い込んでた。
「私、ただ、真白さんの身体を綺麗にするだけです。それで、一緒にいます。それだけです」
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