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カーテンの無い部屋の中で目を覚ました。
曇りの日でよかった。
グレーの雲の下腹から世紀末的な朝日が差している。でも快晴よりましだったに違いない。
頭が痛い。
毛布の下でおそるおそる足を伸ばす。下肢には痛みも何もない。むしろ脚が軽く感じられる。
手で身体を探って、確かめる。
Tシャツとスウエットパンツを履いていることに気が付く。
ほぼ空っぽのクローゼットに昨夜着ていたスーツが吊されていることにも、気が付く。
「リン?!」
寝袋から飛び出す。
ワンルームのマンションに探すべきところはそれほど多くない。キッチンとトイレとバスルーム。
人の気配は無い。
何もない。誰もいない。
タイミング良く洗濯乾燥機のブザーが鳴った。
俺はこじ開ける勢いで扉を開けた。
乾きたての洗濯物は思いがけないくらい、熱い。
バスタオル、フェイスタオル、ボクサーブリーフ。
熱々の洗濯物を抱えて、俺は盛大にため息をついた。
ヒートって記憶は無くさないってことを知った。
洗濯乾燥機から出てきたバスタオルは一枚。フェイスタオルは四枚。俺の家にあるマックスの枚数。
記憶がちゃんとあるところが、いたたまれなさを倍増させる。
多分、タオルの枚数以上、イッた。
白いものを出し尽くして、最後は空イキみたいになって、苦しくて、彼女がずっと背中から抱きしめてくれてた。
背中に女の子の胸の感触があった。そこだけ、あったかかった。熱くも冷たくもなくて。
熱いタオルから身を引き剥がす。
反復横跳びみたいな勢いで寝袋のところに戻る。
毛布を持ち上げ、脇にどける。
耳の後ろからアドレナリンが湧き上がる。
目当てのそれに恐る恐る手を伸ばす。
水色のジャージは毛布の下にあった。
明るいところで見ると、水色と淡いエメラルドグリーンの中間みたいな色合いをしていた。
ジャージの胸元部分にPrince Royal Serviceと白字で刺繍が入っている。
そこに鼻を押し付ける。
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