4.ヒート side真白

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 オメガ施設では色々なものを嗅がされた。  オメガがどんな匂いに反応するのか。  アルファの匂いを嗅ぎ分けられるか。  狂ったみたいに、盛りのついた動物みたいに、特定の匂いで発情するオメガたちの声音を覚えている。  甲高い声でアルファの医者に甘える。  どんな匂いにも、周囲の発情の気配にも、一ミリも反応しない俺は、落ちこぼれ認定されていた。  ジャージに鼻をつけて息を吸い込む。  自分の汗の匂いとあの子の匂いが混じり合っているのが分かる。  襟元と袖口のあたりの匂いが濃い。  涼し気なのに底の方がぴりっとしてて、吸い込んだ喉元にココアみたいな甘さを残す。  特別な匂い。  きっと他の人間なら気が付かない。オメガにしか感じ取れない、ベータには分からない匂い。 「クソ。なんだよこれ」  倫の匂いに触発され、がちがちに固くなった前に手を伸ばす。  左手で水色のジャージをつかんだまま、右手でスウエットパンツを引きずり下ろす。  昨夜あんなに何度も出したのに、まだ足りない。  前だけじゃなくて、後ろのくぼみにもじわじわと何か染み出してきているのが分かる。  回らない頭で彼女のジャージに自分の片腕を通す。腕を通しかけて、タグに目を留める。  頭の中がぐにゃぐにゃする。  自分の吐く息と吸う息だけが、がらんとした部屋の中に反響している。  タグはジャージの前身頃の内側に縫い付けられていた。  明朝体のパキッとした字でタグに刺繍があった。  小川 倫 「倫ちゃん?」  リンちゃん、と呼ばれていた。あの女の子。  そうか日本人だったか、と変に納得する。  妙に涼しげなたたずまいと口数の少なさが、日本語に慣れていない人みたいな印象だった。 「倫」  口に出すともどかしさがこみ上げてくる。  あの子の手が欲しい。触ってほしい。  優しく擦り上げて何度もいかせてほしい。 「……倫」  ジャージを床に転がし、自分も転がった。  倫のジャージの袖口に顔を押し付け、自分の手を、想像の中で倫の手に置き換える。
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