4.ヒート side真白

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 真白さん、大丈夫ですか?  そう尋ねられたのを覚えている。  日本語、使い方分かってんのかって思った。  だいじょうぶじゃない。全然ない。  昨夜何度もイッたから、先端がぴりぴりしてて触るのが怖い。  だけど触らずにいられない。餌のレバーを押し続けるネズミか猿みたいに、不様な動きが止められない。  倫、と名前を呼んで、苦しくなる。  あの子は俺の身体を綺麗にしてくれたのに、俺はあの子の名前を、こんなふうに汚してる。  倫、と喉の奥から湧き上がる。その名前。手の感触と声音と、彼女の揺るがない目と。  名前を呼んでも届かない。 「倫」  自分の声に震えながら、床に白いものを飛び散らせる。  フローリングにこぼれた液体がアメーバみたいな形を作っている。  俺はそれをすくい上げて、後ろのくぼみに擦り付けた。  オメガとして機能し始めた身体を自覚する。  下腹部がもったりと重くて熱くて、疼く。  きっと自分の指では届かない場所。倫の指でも届かない場所。  身体の奥底にオメガの子宮がある。  俺の身体は、アルファに貫かれ、かき回されるのを待っている。  いかせて欲しいと懇願する。  想像の中の倫に、懇願する。  ジャージに頬をこすりつける。  ざらざらした感触。ジッパーの尖った感触。  倫はここにいない。倫の匂いだけが立ちのぼる。  あの子にここにいて欲しい。  せめて受け止めて欲しい。  汚い欲も、みじめな涙も、受け止めて欲しい。  あの子の胸の中に俺を閉じ込めて欲しい。  俺は貫かれたいんじゃなくて、倫に受け止められたい。  それなのに、オメガの子宮が暴走する。  後ろのくぼみが意志を持ったみたいに、中指を締め付ける。    こんなことなら、一生ヒートなんてこなければよかった。  こんな思いをするなら出来損ないのままで、よかったのに。
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