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5.エンカウント side真白
土曜日。
高級ジュエリーショップのドアを開け閉めする係、という退屈きわまりないクソつまらない仕事に、なんとか出勤する。
バックヤードで着替えをするとき、店のオーナーからいい匂いがすると言われた。
オーナーは俺を着飾らせておくのが好きらしい。
装飾品は最低限にしてもらう。
万が一ジュエリーを紛失したら、俺の給料なんかじゃ弁償できない。
ただでさえ一昨日の初めてのヒート以来、頭が重い。
猿並みのソロプレイのやりすぎで、もう一滴も出ない。
部屋の中で、倫のジャージと一緒に居つづけることに疲れた。むなしさばかりつのる。
むなしいとか寂しいとか、自分の身体から教えられるとは知らなかった。
ジャージに刺繍されていた『プリンスロイヤルサービス』を検索してみても、都の保健福祉のページに飛ばされるだけで、何も分からない。
トマは服屋のドア前にいた。
トマは隣の店舗で俺と同じ仕事をしている。
隣の服屋では、着て歩いている人を見たことがない斬新なデザインの、恐ろしい数のゼロをつけた値札の服を売っている。
トマはアシンメトリーなデザインのオーバーサイズのシャツに水玉模様のトラウザーズをはかされて、ものすごくスタイリッシュに見える。
モデルマジックだ。
アルファのマジックかもしれない。
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