5.エンカウント side真白

1/8

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

5.エンカウント side真白

 土曜日。  高級ジュエリーショップのドアを開け閉めする係、という退屈きわまりないクソつまらない仕事に、なんとか出勤する。  バックヤードで着替えをするとき、店のオーナーからいい匂いがすると言われた。  オーナーは俺を着飾らせておくのが好きらしい。  装飾品は最低限にしてもらう。  万が一ジュエリーを紛失したら、俺の給料なんかじゃ弁償できない。  ただでさえ一昨日の初めてのヒート以来、頭が重い。  猿並みのソロプレイのやりすぎで、もう一滴も出ない。  部屋の中で、倫のジャージと一緒に居つづけることに疲れた。むなしさばかりつのる。  むなしいとか寂しいとか、自分の身体から教えられるとは知らなかった。  ジャージに刺繍されていた『プリンスロイヤルサービス』を検索してみても、都の保健福祉のページに飛ばされるだけで、何も分からない。  トマは服屋のドア前にいた。  トマは隣の店舗で俺と同じ仕事をしている。  隣の服屋では、着て歩いている人を見たことがない斬新なデザインの、恐ろしい数のゼロをつけた値札の服を売っている。  トマはアシンメトリーなデザインのオーバーサイズのシャツに水玉模様のトラウザーズをはかされて、ものすごくスタイリッシュに見える。  モデルマジックだ。  アルファのマジックかもしれない。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加