5.エンカウント side真白

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 朝の十一過ぎ、開店したばかりの服屋に客がやって来る。  アバンギャルドな服屋に似合わない、かわいい系の服を着たお姉さんがトマに話しかけている。  トマはアルカイックスマイルでお姉さんを店内に招き入れる。  ホストみたいな商法だけど、確実に服屋の売り上げに貢献しているだろう。  俺の方は、爆買い目的の観光客のためにドアを開けて押さえる。  トマが、俺の店の客にも何か話しかける。  トマは広東語と北京語と韓国語と英語が話せる。  無敵だ。  俺はただドアを開け閉めするだけ。 「真白。一昨日は心配したよ。搬送サービスで家に帰ったの?」  やっと客足が途絶えたタイミングで、トマが俺を抱き寄せるみたいにした。 「会いたかった。真白。もう会えないんじゃないかと思った」  アルファって。  相手がオメガだと分かった途端にこんなにナチュラルに口説いてくるものなのか?  トマが俺に話しかけると香ばしい匂いが強くなる。  焼き菓子みたいな香りだ。 「うなじは? 誰かに噛まれたりしてない? 真白はネックガードしなくて大丈夫なの?」  トマが俺の首元をのぞき込む。  そういえば俺の働く店のショーケースに、繊細そうな、金で編まれたようなネックガードが飾られてる。  実用品って感じじゃないけど。 「オメガが首を守ってるなんて都市伝説だろ」  首にネックガードなんて付けていたら、オメガですと主張して歩いているようなものだ。そっちの方が面倒くさい。  俺はトマの腕の中から抜け出そうと身をよじった。  アルファに触られると下腹部が落ち着かない。  自分でコントロール出来ないものを抱えているのは面倒だ。
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