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「一昨日、真白に言ったことは本当だよ。真白ならベータでも構わないと思ってた。真白がオメガだって知ったら、もう運命だと思った」
トマの吐息が俺の唇をかすめる。
近過ぎる。
トマは、オメガに会う度にそんなこと言ってんのか?
俺のぼやきにトマは首を振った。
「こんな形でフリーのオメガの子にエンカウントするなんて、滅多にないことだよ。運命だと思わない?」
テンカウント?
ふはっとトマが笑う。
爆笑が絵になるやつって、いるんだなと思う。
俺たちの店は路面店なので、目の前の広い歩道をたくさんの人が歩いて行く。
誰もがちらちらとトマを振り返っていく。
「偶然、その相手に出会うことだよ」
「トマは偶然オメガに会ったことないわけ?」
オメガだらけの施設にいたから、そういう感覚分からない。
オメガらしくないせいで、オメガから怖がられるし、疎まれるし、散々だったけど。
「だってオメガは施設で保護されてるか、番のアルファに大事に囲われてるか、だいだいどっちかじゃない? だからマッチングパーティーって貴重だし」
トマは肩をすくめた。
言い訳するみたいに視線を巡らした。
「ほら、ああいう子なら見るけど」
トマの指差す先にオメガがいた。
明らかにオメガと分かる。
オメガの典型例のような子だ。
五月の日差しに溶けてしまいそうな白い肌。色素の薄いふわふわの髪。
白いシャツというよりブラウスみたいなトップスを着ていて、遠目からでも天使みたいな子だと分かる。
俺たちの店の前には幅が三メートルもある歩道があって、その向こうに片側二車線の車道がある。
その更に向こう側の、つまり俺たちから反対側の歩道にそのオメガは立っていた。
「エンカウント?」
俺がつぶやいたのは、そのオメガに気を取られたからじゃない。
天使なオメガを守る従者みたいに、水色のジャージの上下を着た女の子が側に寄り添っていた。
ジャージの袖をたくしあげていて、袖口から見える手首が細かったのと、長い髪を一つに結んでいたから、だから女の子だと分かった。
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