1.オメガ搬送サービス side倫

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 それはオメガ搬送サービスに関わる者にとって至上命題だ。  研修から脱落していったのは、オメガに感情を引っ張られた人たち。『オメガに巻き込まれる』と表現される。  オメガのクライアントに入れ込みすぎたり、特定のオメガが忘れられなくなってしまったり、感情的に巻き込まれる。 「ベータがオメガに巻き込まれても辛いだけだからね。オメガは結局アルファの男性にしか興味ないのよ。というか本能的に惹かれないの。だって突っ込んで孕ませてくれるもの、持ってる相手じゃなきゃだめでしょう?」  オメガは男性なのに妊娠できるという特殊変異体質だ。オメガの女性というのはほとんど存在しないらしい。  突っ込むモノとか、孕ませる、という表現もすごいなって思うけど。でも事実だ。  だから、突っ込むモノをもっていない私たちベータの女性が、結果として搬送サービスを担うことになる。 「身長177センチ。体重は56キロ。ほっそ!オメガって華奢なのよね。でもこの彼、細長すぎるんじゃない?」  麻子先輩はクライアントのプロフィールに戻った。 「二十一歳で、身体がオメガっぽくないってところがネックで、なかなか番が見付からないのかしらね。婚活で焦っててヒートが不安定ってとこかな?」  タブレットからの青白い光が麻子先輩の顔を照らしている。目の下の陰影を濃くする。  二十一歳で婚活を焦る、とはどういう状況だろうと考える。  手のひらでハンドルを滑らせる。  ゆるいカーブを曲がる。 「オメガって身体弱いのよね。特殊変異だから妊娠もしにくいし。確実に妊娠するなら二十五歳くらいまでなんですって」  生きにくいわよね、とささやいた麻子先輩の横顔を盗み見る。  私の前に、二十代でこの職に採用されたのは、麻子先輩だけだと聞いた。十年以上オメガ搬送を続けているはずだ。  先輩は何を見たのだろうか。  それとも、この人も生きにくい人なんだろうか。
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