5.エンカウント side真白

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 天使みたいなオメガは、女の子に支えられるようにしながら、ちょうど車から降りたところだった。  それほど大きくないハッチバックの車で、水色とエメラルドグリーンの中間みたいな色をしていた。 「向かい側の建物、有名な産科クリニックなんだよ。セレブとか、あとお金持ちのアルファと番になってるオメガの子とかが来る。知ってた?」  俺の耳元に口を寄せてトマが説明してくれる。  ジュエリーショップから客が一組出てきたが、俺は仕事を放棄しかけていた。  トマの息が首筋にかかると腹の奥がゾクゾクする。でもいま、それに構っていられない。  俺の目は向こう側の歩道に釘付けのままだ。  天使ふうのオメガはクリニックに入っていった。  クリニックは化粧品の店かエステサロンみたいな外観をしている。  水色のジャージの女の子は、自動ドアの中にオメガが消えるまで頭を下げていた。  斜め四十五度の分度器の線みたいにぴしっとしたお辞儀だった。  彼女が顔を上げると、一つに結んだ長い髪が揺れた。  まばたきも忘れて見入っていたから、目がじんわりと痛む。  お辞儀から顔を上げて一本の線になった彼女は、クリニックの自動ドアを見つめていた。  俺にはその後ろ姿しか見えない。  女の子はジャージの袖を引っ張ってから、両手を持ち上げ、結んでいた髪をほどいた。  一つ一つの動作から目が離せない。車道を走る車が時々視界を遮るのがわずらわしい。  結び目を解かれた髪が女の子の背中に広がった。  彼女の背中の真ん中まで髪に覆われる。  つやつやしてる。  光を反射する長い髪。
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