5.エンカウント side真白

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「倫! 待てって」  違う。  ヒートとは違う。  喉の奥が熱いのに、後頭部がしんと冷えている。  だって今を逃したら、あの子にもう会えないかもしれない。もう二度と。 「小川倫! 聞こえてんだろ!」  目の前を行き交う車が邪魔をする。 「泣くな! バカ!」  倫が振り返った。  目を丸くしている。 「何言って・・・・・・。泣いてなんか」  聞き取れなかったけど、口の動きで分かった。  呟いたあとふくらませた頬が、かわいいと思ってしまった。  喉が熱くて渇いている。  倫に触れたい。俺に触れて欲しい。  倫の匂いを吸い込みたい。倫を肺に取り込みたい。  こんなに苦しい渇きから、解放されたい。 「倫。会いたい。もう一回会いたい。どうやったら倫に会える?」  大声で呼びかける。なりふり構ってられない。  通行人がちらちらとこちらを見ている。  倫の方じゃない。俺を見てけげんそうな顔をしている人がいる。  それ以上に、俺の背中に張り付いているハイスペック男が注目を集め始めている。  倫は背筋を伸ばした。  涼やかな、よく通る声が耳に染み込む。 「サービスの申込窓口は、お住まいの区役所になっております」  倫は一礼した。  結んだ髪が揺れて、一拍遅れて倫の後を追う。
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