5.エンカウント side真白

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 倫は運転席に乗り込んだ。  ガラス窓に切り取られた倫の横顔は、やっぱりあごの線がきれいで目元が寂しそうだった。  俺の目に残像を焼きつけたまま、倫は走り去った。 「サービスって」  膝ががくがくする。  何なんだよ。 「何なんだよ」   目の奥が熱くて痛い。  自分の手をおでこに当てて冷やす。  トマが、トマの手を俺の手に重ねてきた。 「ヒート搬送以外のサービスも、あるってことかもね」  トマが俺のおでこを撫でながら教えてくれる。    ああ、そうか。倫は仕事中みたいだった。さっきの天使オメガはヒートじゃなかった。  ヒートでなくてもオメガに関わる仕事ってことか。 「サービスって」  サービスじゃなきゃ倫には会えないのか。  トマが俺の額に触れ続けている。  香ばしい香りが漂う。アルファにあんまり触られるとやばいんだろうなと思う。  トマの手つきは別にいやらしい訳じゃない。俺に優しくしてくれようとしてる。  それは分かる。    でも倫の手とは違う。  倫の手は、手のひらから前頭葉に作用するんだ。ひんやりして落ち着かせてくれる。  ちょっぴりもの寂しくさせる、不思議な手。 「サービスって何だよ」  口に出すと腹から力が抜けそうだ。  立っているのが億劫だ。 「区役所ってどこだよ」  それでも月曜日の朝イチで役所に行こう、と思ってる俺はバカだ。 「僕も真白に聞きたいけど」  明らかにトマを目当てにやってきたと思われるお客さんが服屋の店前をうろうろしている。  トマは客を無視した。  トマの目は俺の目を見つめていた。 「あの女の子は、真白の何なの?」  それが分かれば、と思う。  俺だってそれが分かればこんなに苦しまない。
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