6.ブルーマンデー side藤原

1/1

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

6.ブルーマンデー side藤原

   年齢が同じで、出身の県が同じ。それだけで運命を感じるほどオレは単純じゃない。  そう思いながらも藤原は、目を閉じて受話器越しの声に集中する。  彼女の唇が音声を紡ぎ出す様を想像する。    先月、新年度の、委託業者との顔合わせで出会った女の子。  業者側の席に座って、水色のジャージを着ていた。  緊張しているのか、椅子に浅く座り、あごを引いて唇をきりっと引き締めていた。  互いの自己紹介の時に目が合った。  目が合っただけで運命を感じるほど、単純でも楽観的でもない。  本来憂鬱な月曜日の朝一番に、彼女と通話をするのは悪くない。内容が新鮮味のない業務の引き継ぎ連絡でも、落ち着いた彼女の声が耳に心地よい。 「倫ちゃん」  業務連絡が終わった頃合いで、名字呼びから名前呼びに切り替える。  近くに座る女性上司の横顔を盗み見ながら、声のトーンを落とす。  年齢が同じで出身の県が同じ。  そのことが彼女を名前呼びする特権になっている、と思いたい。なんとかハラスメントとか、イタイのは困る。 「倫ちゃん。前にも言ったんだけど」  藤原は話を切り出す。 「七月の頭に、役所関係の人で県人会の集まりがあるんだけど、来れそう?」    ええと、と受話器の向こうで彼女が言い淀む。  言い淀む声音が新鮮で耳をそばだてる。 「日曜日はだいたい夜勤の明けなので、夕方なら大丈夫だと思います」 「倫ちゃんが来てくれると、みんな喜ぶと思うよ」  オレが喜ぶよ、とはさすがに言えない。  彼氏はいるのか、と尋ねたこともない。  この四月に都内に引っ越してきたばかりだと言っていたから、彼氏がいたとしても遠距離恋愛かもしれない。  それなりにチャンスはあるかも、と考える。      電話を切るのが惜しいなと思い、受話器を持ったまま首を巡らせたタイミングで、その男が、警備員を吹っ飛ばす勢いで区役所の自動ドアを突破してきた。    女にも見えなくはないが、背が高いから男だろう。  黄色と肌色の中間みたいな微妙な色のTシャツの背に、パトロン協会と書かれている。  どこであのTシャツを手に入れたんだろう、と思っているうちに、男は案内カウンターに突進していった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加