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2.オメガ搬送サービス side真白
三月の末で二十一歳になった。四月に施設を出た。
所属したのはパトロン協会という恥ずかしさを通りこして酷い名前の組織だった。
就職というより、むしろ施設のコネでパトロン協会に拾ってもらった、という事実がまた腹立たしい。
二十一歳まで発情期を迎えたことのないオメガなんて税金の無駄遣いだと言われ続けた。
このまま不良品として生きるのかなと思ってた。
パトロン協会が住むところを用意してくれた。
指定された場所に指定された服を着て出かける、というのが俺に与えられた主な役割だった。
俺が世間知らずなのか、パトロン協会の説明不足なのか、何をする場かよく分かっていないまま派遣された。
今日は、タクシーでホテルに到着した時から、妙に頭が重かった。
このホテルのロビーの空気のせいだろうか。
いたるところに花が飾られている。薔薇だと思う。
五月は薔薇の季節なんだろうか。
花にはあんまり興味がない。動物の方が好きだ。
花の香りがもったりと重く感じられる。
着慣れないスーツが暑苦しくて、喉が渇いた。ネクタイを緩めたいと思った。
何時になったら帰っていいんだったっけと考える。
よく分からないパーティーの賑やかしというか、壁際に立っているだけという役割も面倒くさい。
人間観察くらいしかすることがない。
まあ、人と人とが口説きあっているのを見ていると、動物園的な面白さはある。
たまに施設から出て動物園に行くのは楽しかった。
水族館には行かせてもらえなかった。
閉鎖空間にオメガのフェロモンがこもってしまうから行ってはいけないと言われた。
結局ヒートは来なかったし、フェロモンなんて出したことがないんだから、規則違反して水族館に行っておけばよかった。
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