2.オメガ搬送サービス side真白

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 薄暗いロビーの端っこで話しかけられた。  近付いてきたのはトマだった。モデル体型でしかも整った顔。すぐ分かった。  見覚えのある顔を見付けてホッとしてしまったのが、悪かったのかもしれない。    トマとは先週の土曜日に初めて会った。  高級ジュエリーショップの路面店のドアを開け閉めする係という、クソつまらない、退屈極まりない仕事に派遣されたときだ。  隣の店舗で俺と同じ仕事をしていたのがトマだった。  あまりに退屈な仕事だったけど、あのときもトマが話しかけてきてくれたおかげで何とかやり過ごすことが出来た。  トマがロビーの最奥のバーカウンターに俺を案内してくれた。  俺は酒を断った。飲み慣れてないから。トマは俺にミネラルウォーターを注文してくれた。  トマが歩いたりしゃべったりすると、それだけでドラマチックな感じがする。  今日のトマはシンプルなジャケットとパンツに細身のタイ。服が良いのかトマの姿勢が良いのか、どっちもか。 「いい男って、存在がロマンチックなんだな」  俺はトマをほめた。  ホテルのバーカウンターだろうが動物園だろうが、トマがいたら全てどうでもいい背景になるだろう。彼が主役だ。 「トマって何をやってるひと?」 「母が韓国人女優で、父がイギリス人俳優で、僕自身は売り出し中のモデル」  トマが感じの良すぎる笑みで俺に話しかけた。  目元の彫りが深い。深い眼差しと笑みの形に整えられた端正な唇が印象的だ。惹き込まれる。 「というのが僕の公式なプロフィールなんだけど、興味持ってもらえそう?」  自分が世間知らずなのは知ってた。  施設の中は情報が遮断されている訳じゃない。  だけど、アルファとの相性の話だとか体液の採取だとか、そんなことばかり繰り返されていると、何が大切なのか麻痺してしまう。  発情して子どもを産むことばかりが至上命題だ。 「知らなかった。有名人ってこと?」  トマって、ほんとにモデルだったのか。 「先週会ったときも真白は僕のことを全然知らないみたいだから、むしろ話していて楽しかったよ」  また会えて嬉しいな、とふんわりした口調で言われる。 「僕の非公式なプロフィールについて知りたい?」  トマが俺の耳に口を寄せてきた。  なんだか良い匂いがする。  香水でも使ってんのかな。どちらかといえば香ばしいみたいな匂い。 「僕はアルファだよ」
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