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「ニンニク入れますか?」
鋭い眼差しの店主が低く響く声で言う。
ワイシャツを着た背中をつっと汗が伝うのを感じた。
ここがまさに運命の分かれ道だ。
「やっ、やっ、ヤサイアブラ カラメマシマシ……ッ!!」
やってしまった!
私が座っている椅子がカタカタと音を立てて震えた。
店主の冷ややかな眼差しが俯いて小さくなる私の身体を射抜く。
「……お客さん」
「修行が足りませんでした、出直します」と言おうと就活用のレザーバッグを胸元に手繰り寄せたとき、背後からぶわっと風が吹いた。
「お嬢さん、相当な腕前の魔導士のようじゃな」
はっとして振り返ると、真っ白いローブに身を包んだ長い髭の老人が立っていた。
頭にはとんがり帽子を被っている。
「……は?」
思わず気の抜けた返事を返すと、ラーメン二十四郎に似つかわしくない格好をした老人はにこやかに笑う。
「そなた、さきほど召喚魔法を唱えたじゃろ」
「召喚……魔法?」
「そうじゃ。わしの名はカラメ・マシマシ、白の魔導士じゃ」
IQ3じみた顔でぽかんと見上げる私を無視して、魔法使いとやらは店主に向かって杖を振り翳した。
「アブラカタブラマシマシホイ!」
杖の先から白い光が放たれて、店主の体を包み込む。
突然の出来事に私は思わず叫んだ。
光が止むと、鬼の形相をしていた店主の顔が仏のような笑顔に変わる。
「食べやすいハーフサイズで用意するね(^_−)−☆」
困惑する私に構わず店主はラーメンを作り始める。
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