第一王子が好きなのに、敵国の騎士団長と結婚させられそうなんだが……。

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どうして、同じ人として生を受けた者同士なのに、貴方様に想いを告げることが許されないのでしょうかーーー。 そんな理由、分かりきってる。 元孤児の私と、いずれこの国の王となる第一王子とが結ばれる人生なんて、残酷な神様は用意してくれてないからだーーー。 昔、興味本位で城から城下町にこっそり出た第一王子ーーーマルクス様が奴隷商に捕まりそうになっていたところを、孤児のため、唯一の親の形見とも言える父が亡くなる前に教えてくれた剣術を活かし、民間人への護衛の仕事をしていた私がたまたま助けることになった。 そのことに大変感謝したマルクス様は、私を国家直属の騎士団へ入団させてくれた。 本当は、マルクス様は私を婚約者にしたいと駄々をこねていたが、そんなこと許されるはずもなく、立派な施設で、立派な衣服や武具、食料などが与えられ、それらを享受しながら、私は騎士としての人生を歩み始めた。 騎士として育てられている私に、マルクス様はよく会いに来てくださった。 私に似合いそうだと、美しいドレスやアクセサリーを贈ってくれたり、美味しい菓子を食べさせてくれた。 そんなマルクス様を、少しずつ私も好きになっていった。 だが、マルクス様に想いを告げる前に、この恋は封印するはめになった。 マルクス様が13歳の誕生日に、マルクス様の前に婚約者が現れたからだ。 お相手は、この国で一番地位の高い貴族の娘。 それでも、当時、私はマルクス様は私を選んでくれると信じていた。 しかし、婚約者ができてからマルクス様は、プライベートで私に会いに来てくださらなくなった。 ーーーあぁ、命の恩人より、私よりも強さも美貌も劣る、あの娘を貴方様はお選びになったのですね……。 そう悟った日の夜、自室の窓から眺めた夜空を私は忘れない。 そうして数年の時が経ち、私は騎士団の中で最も強い騎士となり、女でありながら、最年少の17歳で副団長となった。 それを不服に思う者がいないほど、私は強くなった。 それほど努力したのはーーーせめてマルクス様がいる自国を守りたかったから……。 結ばれることができないのであれば、貴方様をお守りしたい。 その気持ちだけで、どれほどキツい鍛錬も乗り越えてこれた。 そして、私が19歳になった頃。 ずっと緊張状態が続いていた隣国の軍事大国との戦争が始まってしまった。 この国一番の鍛冶屋が作った剣を振るい、敵の騎士たちを一掃していく。 この戦のために、私は諜報員から騎士団長が誰なのか調べさせた。 敵国の騎士団長ーーールーク・シュヴァリエ。 軍事力で名を馳せる国でも最も強い男だと聞く。 しかし、その男以外は、私の祖国の騎士の質のほうが高いという情報も入っている。 敵の騎士団長さえ、早々に片付けてしまえば、こちらが有利だ。 ルーク・シュヴァリエを探しながら戦い、そして三日目の朝、ようやく標的を見つけた。 他の敵国の騎士は他の者に任せ、私は馬を標的向かって一直線に走らせた。 …………標的の武器は槍か。 間合いでは、相手が有利だ。 ルーク・シュヴァリエは、有利な間合いを活かし、先に私の馬を仕留めた。 が、私もそれを先読みし、馬から飛び降り、着地すると同時に相手の馬の命を奪う。 そのまま、流れるような動作で標的の首を狙う。しかし、それは体勢を崩すことによって避けられ、相手の首に数センチメートルの切り傷を付けただけに終わった。 剣を構え直し、殺気立つ私に向かって、ルーク・シュヴァリエは何を思ったのか大声で笑った。 「いやぁ〜〜〜。お嬢さん、別嬪(べっぴん)さんなのに強いなぁ〜〜〜。俺、戦闘で怪我なんかしたの初めてだわ。わぁ〜〜〜、ヤバい……。惚れた……」 ーーーは? コイツは、戦場で何を言っているんだ……。 「そうか、では斬る」 「待って、待って。殺し合うより愛し合おうぜ?」 「ふんっ、敵対しているのに、何が愛し合うだ」 「あ〜〜〜。敵対しているのが駄目なのね……。うん……。よしっ!そこは任せて!!」 「任せてって、何を……」 頭のおかしい男は、全軍撤退の合図を出し、自陣へと向かった。 「まぁ、任せてよ。何とかするからさぁ〜〜〜」 その男が、一体何をしたのかは分からないが、事実、この戦は急に終わりを告げ、後に三日間大戦と呼ばれることになった。 城の謁見室に呼ばれ、入室すると国王と王子たちや姫たちがいたーーーそのなかには、もちろんマルクス様も。 王が口を開く。 「急なことだが、隣国とは和平交渉が昨夜行われ、我が国と隣国は同盟関係を築くこととなった。ーーーただ、その条件が我が国の騎士団副団長のロディ・ブラウン……そなたと隣国の騎士団長ルーク・シュヴァリエとの結婚なんだが……承諾してくれるな?」 ーーーーーは? 私は混乱したし、その場にいた全員の顔に困惑の色があった。 ルーク・シュヴァリエとは、城の客室で話し合うことになった。 顔を合わせて、すぐさま私は怒鳴らざるを得なかった。 「貴殿は、一体何を考えている!?」 「え?君との幸せな未来予想図」 「阿呆か!!」 「まぁまぁ、落ち着いて。ーーーもともと、こっちの狙いは、君の国の高度な技術力と、豊富な食物だ。たった、それだけのために戦争するなんて、それこそ阿呆じゃない?」 「そちらから戦を仕掛けといて、何を……っ!!」 「それは、ゴメンて。うちの王室、脳筋だからねぇ〜〜〜。何でも武力で物事を進めようとするのよ」 「それが、何故停戦に!?」 「まぁ、それは俺のワガママ。こっちの国家機密なんだけどーーー俺にも王家の血が半分流れてんの。まぁ、もう半分は娼婦なんだけど。で、それを一生秘匿する代わりに、一生に一度、何でも願いを叶えてくれるって王室が約束してくれたわけ〜〜〜」 「で、そのワガママ……願いの結果が、これか?」 「そう!!というわけで、君は俺と結婚してもらうことになるから、よろしくな!!」 ーーー何がっ、何がっっっ、よろしくなんだ!! そう叫んで、目の前の男を殴りたかったがーーー。 国のことを考えれば、これが一番の選択だ。 ーーーーーどうせ、マルクス様とは結ばれない運命なのだし。 はぁっと、ため息を吐き、私はこちらに差し伸べられた手をとった。 「私なんかのどこが良かったんだ……。そんな切り札を使うほど……」 「ん〜〜〜?俺、強くて美人な女性が好みなんだよね。そしたらさぁ、かなりの美女が俺に生まれて初めて戦闘での傷をつけるもんだから、そりゃ、惚れるしかないよね」 「…………そうか」 同盟関係が結ばれた日。私は荷物をまとめ、ルーク・シュヴァリエと共に、彼の国へと向かった。 祖国に二度と帰れないということは、おそらくないだろうが、それでもどこか寂しかった。 そんな気持ちを切り捨て、ルーク・シュヴァリエの隣を歩く。 その時、背後から愛しい人の私の名前を呼ぶ声が耳に届いた。 まさかと思いながら振り返ると、マルクス様がこちらへ向かって走ってきていた。 「シュヴァリエ騎士団長どの!!僕が本当に愛している人を……っ!!ロディを……っ、どうか、世界で一番の幸せ者にすると約束してはくれないだろうか……っ!!」 ルーク・シュヴァリエは、驚きの表情を笑みへと変え、こたえた。 「おぉよ!!王子サマより、う〜〜〜〜〜んと!!幸せにしてやるから、安心しな!!」 「絶対だぞ!!……それじゃあ、さようなら……愛しのロディ」 私は何も言うことができなかった。 目からは、次々と涙がこぼれ落ち、情けない気持ちもあるのに、幸福感で胸がいっぱいだった。 乱れそうになる呼吸を整え、何とか別れの言葉を口にする。 「さようなら……。愛しのマルクス様」 神様は、思っていたより残酷じゃなかったらしい。 孤児だった娘と第一王子が、愛を伝え合うことも許してくれて、おまけに変わった隣国の騎士団長は、私を結婚してから不幸な思いをいっさい、させなかった。 祖国も、嫁いできた隣国も、同盟により長い平和が訪れ(そのために、ルークは裏で何かしていたようだが)、私の一生は幸せなものだったといえるだろう。 これでは、神に感謝しなければ罰が当たるなと、私は苦笑するのだった。
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