撮影

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撮影

「こっちおいで。」 そう言って休憩所に連れてきてくれたヒカルさん。 「コーヒー?紅茶?どっちにする?」 「上着いる?寒くない?」 初対面の時には考えられないくらい優しく声を掛けてくれて、小さな事まで気にかけてくれるようになっていた。 そう、あの初対面から3ヶ月が経って撮影が始まった訳だけど、オレはこの3ヶ月めちゃくちゃ頑張って体重を落として線が細く見えるようにした。 少し髪も伸ばして少しでも可愛くみえるように、あの美しい人に認めて貰えるようにと思って。 オレが3ヶ月頑張ってた間に、ヒカルさんだって当たり前に役作りをしていて、彼は更に美しくなっていた。 学園の王子と言われる役柄の風貌にする為に、初対面の時には短かった髪を伸ばし、頬に掛かる前髪が一層彼の美しさを際立たせている。その前髪を鬱陶しそうに払う指先1つも計算されたような美しさだった。 そして何より、オレの事を好きだとわかる熱烈な視線。 ヒカルさんは役に入り込む憑依型の役者だと聞いたけど、表情がもう甘くて。 役者ってスゲェなって思ったし、今までの共演者は苦労しただろうなって。勘違いした役者がたくさん居たんだろうなって思った。 その点、オレは男だし何かが起こりようもないから心配はないだろう。 と思ってたんだけど、 なんか、ヒカルさんって見た目と中身が全然違う。 クールで愛想が悪くてとにかく性格がキツイと思ってたけど、ただの天然の世間知らずのお姫様みたいな人だった。 今もオレにコーヒーを淹れようとしてくれてるけど、マネージャーに真横で指導されないとインスタントコーヒー1杯自分で作れない。 高い身長を思いっきり屈ませて、小さなコーヒーカップに顔を近づけてお湯の量を見定めようとしてる。 オレもマネージャーもハラハラしながらそれを見守る。 「…できた」 無駄に美しい顔でコーヒーを持ってオレを振り返ったヒカルさんに思わず拍手が出た。 「ヒカルさん、ありが―」 「お待たせしました!撮影再開しまーす!」 無情にも温かいコーヒーは飲むことは出来なかったけど、ヒカルさんの悲しそうにシュンとした仔犬のような表情を見ることができたと内心喜んでしまった。 新たな表情を見るたびにキュンとしてしまうのは仕方ない。
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